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「小さな町から大きな目標へ...」北海道下川町からSDGsを推進する清水 瞳さんの挑戦

2025年2月20日(木)13時00分
酒井理恵

──なぜ北海道下川町に注目したのですか?

下川町は、2017年、第1回「ジャパンSDGsアワード」大賞にあたる内閣総理大臣賞を受賞したほか、「SDGs未来都市」・「自治体SDGsモデル事業」に選定されている地域です。町民約3000人程の小さな町ですが、SDGsに先進的な自治体として国連からも注目されていました。

実際に町民として町を知ることこそに意味があると感じ、自分自身がまちづくりのプレーヤーとなり、行政と地域の皆さんがどんな風に関わっているのかを肌で感じるためにインターンシップを決意しました。

半年で得られることは多かったですが、下川町がSDGsをまちづくりに活用し始めてまだ3年。政策のなかでSDGsがどのように活きるのかを研究し続けたいと思い、大学院卒業後は下川町役場で、SDGsをどのように政策に反映していくかという実務経験を積むために、行政職員になりました。

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日本におけるアイスキャンドル発祥の地として知られる下川町。写真は「しもかわアイスキャンドルミュージアム」での一枚

──実際に働くことになるとは、縁が深い町なんですね。インターンシップ中、印象に残っている出来事はありますか?

2019年、まだSDGsがあまり世の中に知られていなかったときに、下川町の小中学生に「SDGsのお姉さん」と呼ばれるなど、SDGsに対する認知度が高く、SDGsが浸透している町だということが印象に残っています。

修士論文作成にあたっては、政策決定で町民参加型の議論を行うために、SDGsはどのような役割を果たしているのかをインタビューなどで調べました。下川町は「2030年における下川町のありたい姿(下川版SDGs)」を独自に作成し、町の将来像として全ての政策にSDGsを反映させています。これは他の「まち」にはなかなか見られない事例だと思います。

下川版SDGsを策定する際、町民の委員と行政の委員による議論が10回以上にわたり繰り広げられました。その際、「この政策だとあの人が取り残されちゃうね」という会話が自然に生まれているなど、SDGsを体現している町民が数多くいる印象を受けました。

下川版SDGsがあることで、下川町の目指す未来から逆算して現状の問題を議論することが可能になり、「町民のやりたいこと」と「町の未来」がつながる、住民参画型のまちづくりがしやすい政策がつくられると思いました。下川町の目指す未来をSDGsという共通言語で一緒につくって掲げることにより、目指す姿を町民と一緒に実現する気運が生まれたとも言えます。

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家庭の不用品を「循環」させる「しもかわぐるぐるマーケット」。写真は清水さん企画のアップサイクルブース

──なぜ就職先を下川町に決めたのですか?

国連や政府はSDGsを積極的に推進していますが、なかなか浸透していないのが現状です。これは、自治体と政府との間にギャップがあるからなのではないかと考えています。特に、世界的に見ても小規模自治体は取り残されてしまっていると感じています。しかし、小規模自治体だからこそ住民とのつながりが深くなり、迅速に政策を反映できたり、世界に大きなインパクトを与えられたりする可能性を下川町や西粟倉村の事例から感じ取れました。

入社1年目から企業などのサステナビリティ部門へ配属されるケースは少ないと就職活動中に言われた言葉が印象的で、若者としてどのようにサステナビリティに関わっていくかを考えていました。

そんな中、インターンシップ中、企画立案を数多く経験させてもらえいただけたことをはじめ、国連で町の取り組みを発表する機会を与えられていただいたことがあり、裁量を与えていただき、小さな町だけど国を跨いだ仕事ができるということに魅力を感じていました。「即戦力として社会に貢献したい」という気持ちと、「もう少し研究を続けたい」という思いから、引き続き下川町で働きたいと思いました。

また、町民が「おかえり」と言ってくれる、「まち」の一員だと感じさせてくれる温かい町であることも決め手になりました。

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