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海洋保全

ネコも食べない食害魚は「おいしく」人間が食べる...対馬の海を「磯焼け」から救う、ある女性の戦い

Restoration of Ocean Biodiversity

2025年1月24日(金)14時23分
小泉淳子(ライター)

意識変容がカギを握る

犬束の功績は、未利用魚に高い付加価値を与えたことだけではない。漁業者をはじめ島の人たちの意識を変えた点が大きい。海の仕事をしているとはいえ、全ての漁業者が海の持続可能性を意識しているわけではない。イスズミもアイゴも、漁業者にとっては補助金をもらって駆除する対象でしかなかった。

そんな漁業者の意識が変わったのは、犬束の行動力と明るい人柄が周囲を巻き込んでポジティブなうねりを生み出したからだろう。捕獲されたイスズミやアイゴの鮮度が保たれたまま丸徳水産に運ばれる流通経路も確立された。


今も補助金による駆除は続くが、いつかイスズミやアイゴが水産資源として捕獲されるようになることを目指したいと犬束は言う。

「食べる人の意識も変わり、イスズミやアイゴがみんなを良い方向につないでいるように思う。海の環境はすぐには良くならないかもしれないが、食害魚を焼却してCO2を出すよりもおいしく食べたほうがいいし、地産地消にもつながっている」

人を巻き込むことの大切さを実感した丸徳水産がいま力を入れているのが、漁業者らが海の現状を語るツアー「海遊記」だ。参加者に釣りや魚の餌やりなど海の楽しさを体験してもらうとともに、磯焼けや海洋ゴミなど海を取り巻く課題を紹介することで海への関心を高めるのが狙いだ。

対馬の豊かな海を取り戻し、持続可能な漁業を次世代につなぐために、犬束の挑戦はまだまだ続きそうだ。

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