最新記事
環境

ウクライナ戦争の被害は「意外なところ」にも...貴重な「赤い海藻」をロシアの侵攻から守れ

Saving Ukraine’s Seaweed

2024年12月24日(火)18時48分
エリーズ・ハウザー

クリミア沿岸に群生する海藻

クリミア沿岸に群生する海藻 ALEXANDER KURAKIN/INSTITUTE OF MARINE BIOLOGY OF THE NAS OF UKRAINE

その後96年にフィロフォラが絶滅危惧種に指定され、2008年と12年に2つの藻場が保護区になると、生態系は息を吹き返した。

汚染物質を食べる海藻

だが「22年に状況は一変した」と、ウクライナ国立学士院(NAS)海洋生物研究所のガリーナ・ミニチェバ(Galyna Minicheva)所長は嘆く。ロシアが港を封鎖し海に浮遊機雷をまいたため、藻場には近づけなくなった。


ミニチェバによれば、研究者は今「遠隔技術を駆使し情報を得ている」。例えば沈没した軍艦や戦闘機の油膜を衛星画像を使って追跡し、生態系への影響を査定するのだ。

昨年6月にはロシアの爆撃でカホフカ・ダムが決壊し、汚染された淡水が海になだれ込んだ。「危機的状況だった」と、ミニチェバは振り返る。

しかし数カ月後、衛星画像が希望を映し出した。汚染物質を餌にする海藻が藻場で育ち始めたのだ。ミニチェバはこれを「生態系を出発点に戻す自然の摂理」とたたえる。

一方、NASの海洋生物学者ソフィア・サドグルスカ(Sofia Sadogurska)はフィロフォラの藻場を「エメラルド・ネットワーク(Emerald Network)」に登録しようと働きかけている。

エメラルド・ネットワークとは欧州をカバーする非EU加盟国の自然保護区連絡網。「占領と戦闘で近づけない地域は多いが、占領地でも保護区の制定は要請できる」と、サドグルスカは考える。

ウクライナがEUに加盟すれば、このネットワークに登録された国内の保護区はEUの自然保護区連絡網「ナチュラ2000」に組み込まれる。そうなれば環境保全の資金も増えるだろう。

「できることはたくさんある」と、サドグルスカは言う。

This article by The Revelator (https://therevelator.org) is published here as part of the global journalism collaboration Covering Climate Now.

ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

新発10年債利回りが1.625%に上昇、2008年

ワールド

李大統領は「偽善者」と北朝鮮メディア、米国での非核

ワールド

イランが英仏独と核協議、制裁復活迫る中

ワールド

米、耐食鋼で反ダンピング関税 豪ブラジルなど10カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中