最新記事
環境

2.8億円を投じても回収しきれない...長崎県対馬の海洋ごみ問題と、日本人の「海離れ」

2024年7月15日(月)18時10分
小泉淳子(編集者)
長崎県対馬の海洋ごみ

長崎県対馬の海岸には年間3万〜4万立方メートルのごみが流れ着く(写真はクジカ浜)。一度現地を訪れた人は誰もがごみの量に圧倒され、海洋ごみ問題を自分ごととして捉えるようになる Photo: Yuichiro Hirakawa

<【海の日】九州と朝鮮半島の間に位置する対馬には、ペットボトルやポリタンクなど大量の海洋ごみが流れ着く。現地で課題解決に取り組む人々はいるが、サポートはまだ足りない。「関心」を喚起する取り組みが始まった>

各国語が入り混じったペットボトルにポリタンク、漁業用のロープに養殖いかだ。今年4月に取材で訪れた長崎県対馬の海岸は、ありとあらゆる海洋ごみで覆い尽くされていた。

日本海の入り口に位置する対馬の海岸には、海流の影響もあって海洋ごみが大量に流れ着く。風に吹き上げられたごみは、海岸から数十メートル離れた山間にまで散乱していた。遠くを見渡せば、美しい山並みと穏やかな海が広がっているのに――。

手付かずの自然と手付かずのごみが同居する、そんな衝撃的な風景に言葉を失った。漂着ごみの問題は見聞きしていたものの、実際の状況は想像をはるかに超えていた。

2023年1月から2024年1月の1年間に対馬の海に流れ着いたごみの量は、およそ3万7000立方メートル。25メートルプール約100杯分もの量である。回収すればいいではないか、と思うかもしれないがそれほど単純ではない。対馬市では、市の予算と国の補助金の計2億8000万円を投じて回収作業を行なっているが、回収できる量は全体の4分の1程度だ。

海洋ごみの現場を案内してくれたブルーオーシャン対馬の代表、川口幹子さんによれば、たとえ回収できたとしても、漂着ごみは劣化が激しいうえに有害物質が付着している可能性もあることから、リサイクルは極めて難しいのだという。それでもごみで埋め尽くされた海岸を目の当たりにすると、1つでも、2つでも漂着ごみを拾ってきれいな砂浜に戻したい、そんな思いに突き動かされる。

海洋ごみだけでなく、海藻が失われ海が砂漠化する磯焼けなど、海をめぐる課題は山積みだ。

対馬での取材で未来への希望があったとすれば、川口さんをはじめ、海の課題に向き合い、ポジティブに活動しているたくさんの人たちに出会ったこと。大好きな美しい海を次世代に残したいという人々の思いが、海を守る行動につながっていた。自分にできることは、対馬の海洋ごみの状況を伝えることだと改めて身を引き締めた。

日本人の「海離れ」と「まずは子どもたちに」の新プロジェクト

日本にとって海は世界とつながるための扉でもあり、豊かな食文化を届けてくれる大切な存在だった、はず。ところがこのところ「海離れ」が広がっているという。

日本財団が7月11日に発表した「第4回 『海と日本人』に関する意識調査」(2年に一度実施)によれば、7割が「海は大切な存在だと答えている一方、「海にとても親しみを感じる」人はわずか31%。2019年の調査に比べ13%も減少している。「この1年で一度も海を訪れていない」人は52%にのぼる。コロナ禍があったとはいえ、海との接触の少なさが海への愛着の薄さにつながっているといえそうだ。

海が遠い存在になり、関心が薄れていけば、課題解決への取り組みも進まない。なんとか海への関心を呼び起こそうと動き出したのが、公益財団法人ブルーオーシャンファンデーションと一般社団法人Think the Earthだ。

今秋の刊行をめざし、両者は共同で、海と環境をテーマにしたビジュアルブック『あおいほしのあおいうみ(仮)』を製作している。今回対馬で取材した取り組みもこの本に掲載される予定だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

テスラ、一部運転支援機能をサブスク課金で提供へ 米

ワールド

中国人民銀、中国・香港市場の連携強化を推進

ワールド

焦点:ダボス会議「トランプ・ショー」で閉幕、恐怖と

ビジネス

緊張感をもって市場の状況を注視=為替で片山財務相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中