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日本の高齢者が握る2000兆円──消費されぬまま毎年50兆円が相続に流れる現実

2025年8月15日(金)10時04分
野尻哲史(フィンウェル研究所代表)*PRESIDENT Onlineからの転載

「亡くなるときの資産が最も多い」

相続財産を受け取った相続人は、自身も退職世代であるがゆえに「自分の老後のために相続資産はできるだけ使わないようにする」という姿勢を強めかねません。

老老相続が増えれば、その資産は高齢者のなかで巡り続けることになります。この流れが続くと、高齢者が抱える資産はいつまで経っても高齢者のなかで滞留し続け、休眠化しているのと同じことになります。そして高齢層への資産のさらなる集中が続いてしまうのです。


長生きリスクを否定することはできません。しかしそれを過剰に意識して消費に後ろ向きになるのは残念なことです。

退職後の生活のために資産を作り上げてきたわけですから、退職したらそれを使っていくべきです。長生きリスクを心配してその資産を使わない結果、「亡くなるときの資産が最も多い」などと揶揄されることになります。

保有資産のピークは退職時点となるのが本来の姿です。

退職世代の地方都市移住を私が話すワケ

相続の発生に伴うもうひとつの課題は、地方から都会に資産を送り出してしまうことです。

被相続人の多くは地方に居住し、相続人は都会に住んでいますから、相続が発生すると資金は地方から都会に流れ出します。世代を超えて行われる贈与においても同じです。

超高齢社会は多死社会ですから、毎年、死亡者は増え続けると推計されます。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、死亡者数(中位)は2021年で144.5万人ですが、40年には166.5万人に増加します。被相続人が年々増加し、相続する資産が大きくなるほど、地方から都会への資産の移転は深刻さを増すことになります。

高齢者がその地で消費にほんの少し前向きになることは、相続に伴う地方からの資金流出を抑制するという点からも地方経済にプラスになります。さらに高齢者の資産が消費に回ることで経済へのプラスの効果があれば、子ども世代の生活が自分たちよりも悪くなると思う高齢者が少なくなるでしょう。

それは遺産動機に影響を与え、高齢者が消費にもう少し前向きになる力ともなるはずです。

また退職金や相続資産を持った退職世代が地方都市に移住すれば、物理的に都会から地方に資金を逆流させることも可能です。退職世代の地方都市移住について、私は、個人の生活費を抑えるという視点で言及することが多いのですが、日本経済の抱える地方経済の活性化という視点でも大きな可能性を秘めています。

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※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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