「太ってもいい」は嘘だった?...「ボディ・ポジティブ」の旗手たちも糖尿病薬で「お手軽ダイエット」の功罪

The Beautiful And The Damned

2025年6月5日(木)16時35分
ヘスス・メサ(本誌英語版エディター)

「GLP-1薬に関して指摘されている倫理上の懸念は主として、費用とアクセスの問題だ」と、コロンビア大学のロバート・クリッツマン教授(精神医学・生命倫理)は言う。費用が月額で1000~1400ドルにも上るのだ。

減量薬としての使用は現段階で適用外であるにもかかわらず、この種の薬へのメディケイド(低所得者医療保険制度)の支出は急激に増加している。総支出額は19年の5億7730万ドルから23年には39億ドルに跳ね上がった。

しかも、増加ペースが頭打ちになる気配はない。それを受けて、メディケイドでのGLP-1薬の使用を制限することを検討し始めた州もある。


しかし、肥満が無視できない問題であることも事実だ。現在、アメリカの成人の42%が肥満の状態にある。この割合は、1980年代に比べて2倍近い。肥満を解消するのは容易でなく、しかもほかのさまざまな慢性疾患の原因になる。そうした認識の下、米国医師会は2013年、肥満を一つの病気と位置付けた。

こうした事情に照らすとGLP-1薬は長く待望されていた薬といえるだろう。臨床試験によると、この種の薬を用いた人は体重が15~25%減るだけでなく、血糖値、血圧、循環器系の健康状態も改善するという。

米政治の上層レベルも関心を示している。トランプ政権の中枢にいた起業家のイーロン・マスクは、GLP-1薬をもっと利用しやすくするべきだと主張していた。

マスクのX(旧ツイッター)投稿(2024年12月11日)


「アメリカ人の健康と寿命と生活の質を改善するためには、(GLP-1薬を)極めて安価で提供する以上に有効な方法はないだろう」と、昨年12月に「X(旧ツイッター)」に投稿した(マスクは自身もウゴービを用いていると認めている)。

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