最新記事
BOOKS

「自分が正しいと思いたいのは、あなたの自惚れでは?」...反論できないニーチェの指摘【3分だけ哲学】

2025年5月12日(月)16時30分
富増章成

人間は何かを主張するとき、その主張が論理的に正しいと信じ込んでいます。でも、実は、自分が信じたいことに一番ぴったりくる論理を選んでいるのでしょう。何かを主張したくなったら「なんで私はこう考えたかったのだろう?」とその根拠を探す。そして「ああ、こういう設定で考えると、自分は元気がでるわけか」と分析します。

ニーチェは、欲望によって論理が操られてしまうのだから、人間はぜんぜん理性的ではないという事実を暴露した哲学者でした。

道徳的な人はなぜうさんくさいのか

また、ニーチェは道徳批判をしています。一般に、道徳は絶対に正しいと思われています。でも実は、「力への意志」が都合のいいことをチョイスして自分を武装しているものなのです。

だれでもうすうす気がついているのですが、道徳的なことを言う人はなぜか説教くさく、うさんくさい感じがします。なぜなら、道徳で自分を武装することができるからです。

弱者は「善」とは限らない:奴隷一揆する弱者たち

さらにニーチェは、善悪の起源も問います。なぜか弱者は「善」であり、強者は「悪」であると思われがちです(例:貧乏は美徳、金持ちは悪人)。弱者は、心のなかに恨み(ルサンチマン=怨恨)をもち、弱い自分は「善」であり「正しい」と解釈します。

「道徳における奴隷一揆は、ルサンチマンそのものが創造的となり、価値を生みだすようになったときにはじめて起こる。すなわちこれは、真の反応つまり行為による反応が拒まれているために、もっぱら想像上の復讐によってだけその埋め合わせをつけるような者どものルサンチマンである」(『善悪の彼岸』)

弱者が価値の転換をして、強者を引きずり下ろすことを「奴隷一揆」と表現しています。これもニーチェらしい激しい言い方です。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ステランティスCEO、米市場でハイブリッド車を最優

ビジネス

米ダラー・ゼネラル、通期の業績予想を上方修正

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス

ワールド

マラリア死者、24年は増加 薬剤耐性や気候変動など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中