最新記事

環境問題に意識高いヨーロッパは「昆虫食」を受け入れたか?

2023年4月20日(木)19時18分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

とはいえ、これらの統計だけで、とくにフランスで昆虫食が受け入れられそうだということはできない。パリに長年住む筆者の知人も、「イノビート(2021年5月オープン)など昆虫食を出すレストランもありますが、一般的には、フランスでは昆虫食はまだまだ浸透していません。肉を食べる回数を減らした方が地球に優しい活動だという認識はだいぶ広まっていて、それで肉を減らしたり、肉ではなく魚を食べるフランス人は確実に増えましたが」と話す。知人の指摘では、フランス人はエスカルゴ(軟体動物)を食べ、その形状が昆虫にも見えるから、昆虫食への抵抗感ももしかしたら低いかもしれないとのことだ。

ドイツ、大半のパン屋は昆虫パウダー入りに反対

ドイツでも、今、多くのメディアが昆虫食について取り上げている。パンの国として有名なドイツでは、昆虫パウダーが入っていることを知らされずにパンを買ってしまうのではないか、その逆に、昆虫パウダー入りのパンが気軽に買えるようになるのかと気になる人も多いようだ。バイエルン放送(ドイツの公共放送局)が取材したパン屋の店主は、先述の2つの食用昆虫が新たに認可されてから、パンを買いに来た客たちが、ほぼ一様に「昆虫パウダー入りのパンはありますか」と聞いてきたと話している。

この店主は、昆虫パウダー入りのパンには反対だ。このパン屋では自家製パンではなく、ミュンヘンにあるパン工場で作られたパンを売っているが、そのパン工場でも昆虫パウダー入りのパンは将来も製造しないとはっきり述べている。

こちらの記事では、ドイツ南端に位置するボーデンゼー湖沿いのパン屋数件の反応を掲載している。どのパン屋も、昆虫パウダー入りのパンは製造しないと言っている。

昆虫食はまだニッチな製品だが、今後、どう変わっていくだろうか。家畜やペットの飼料、養殖魚の飼料の分野で食用昆虫が広く使われることは予想できるが、人が食べることを推奨していくとしたら、大人よりも子どもたちに啓蒙活動をする方が効果的だろう。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中