最新記事

昆虫食

20年以内に、人々の主要なタンパク源は昆虫になる──食糧危機の解決策

2017年11月17日(金)18時15分
高森郁哉

「20年以内に、人々の主要なタンパク源は昆虫になる」 Rebecca Cook-REUTERS

世界各国で古くからある慣習だが、欧米ではほぼマイナーな存在だった「昆虫食」。だが、著名経営者が昆虫食ビジネスの新興企業に投資したり、欧州連合(EU)の域内で来年1月に食用昆虫の取引が自由化されたりと、状況は大きく変わりつつある。

アトランタ・ホークスでコオロギ入りのタコスが販売開始

「20年以内、あるいは15年以内に、人々の主要なタンパク源は昆虫になる」。そう語ったのは、米ハイテク大手シスコシステムズの会長、ジョン・チェンバース氏だ。2015年まで20年にわたり同社のCEOを務め、現職も来月に退くことを表明しているチェンバース氏は、11月上旬にカリフォルニア州で開催されたイベント「テコノミー17」でそんな予測を示した。

CNETの記事によると、同氏は昆虫食ビジネスを手がけるテキサス州の新興企業アスパイア・フード・グループに出資し、同社CEOのメンターも務めている。アスパイアはロボットを導入したハイテク施設で食用コオロギを養殖しており、通常の3分の1の期間で50%大きな成虫に育てることができるという。同社はまた、ガーナで食用のヤシオオオサゾウムシの幼虫を養殖する農場にも最新技術を提供している。


米国ではまた、ジョージア州に本拠を置く全米プロバスケットボール協会(NBA)のチーム、アトランタ・ホークスのスタジアムで、10月下旬からコオロギ入りのタコスが販売開始されたことも話題になった

食糧危機と環境問題の解決策として

国連食糧農業機関(FAO)は2013年、「食用昆虫:食料と飼料の安全保障に向けた将来展望─」と題したレポートを発表した。レポートによると、世界の人口は2050年に90億人に達し、食肉の消費量は世界全体で約30%増加すると予想されるという。だが、世界に排出されるアンモニアの60〜70%が家畜に由来し、家畜の排泄物や腸内発酵から温室効果ガスも大量に排出されるなど、畜産業は環境汚染や地球温暖化への悪影響が指摘されている。そのため、食用や飼料としての昆虫の利用が、安定的にタンパク源を供給しながら環境の改善にも役立つとして期待されている。

takamori1117a.jpg

国連食糧農業機関の「Edible insects Future prospects for food and feed security」

それから2年後の2015年、EUは食用昆虫を含むノベルフード(新奇な食べ物、珍しい食べ物の意味)の域内商取引などのルールを改定する「ノベルフードに関する規制」を承認。この新ルールは2018年1月1日から施行され、食用昆虫や昆虫を原料に含む食品がEU域内で自由に売買できるようになる。

日本でもイナゴやハチの幼虫の佃煮などが知られているが、やはり昆虫食には心理的な抵抗があるという人も多いだろう。とはいえ、家畜に代わるエコなタンパク源として、食用昆虫への期待が高まっているのは世界的な傾向のようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 その後急反発

ビジネス

野村HD、1―3月期純利益は前年比7.7倍 全部門
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中