最新記事

旅行

何もない......でも何かに出会える国 日本から「一番遠いASEAN」ラオスの魅力とは

2019年8月1日(木)19時25分
大塚智彦(PanAsiaNews)

newsweek_20190801_191255.jpg

カムアン県のシコッタボン・ストゥーパ (撮影=筆者)

穏やかで悠然とした時間が流れるラオス

このほかにもカムアン県にはシコッタボン・ストゥーパ、ブッダ洞窟、メコン川を挟んでタイを臨むフランス植民地時代からの古都ターケークなど日本人に馴染みのない観光スポットがある。チェンマイからは空路も鉄路もなく、バスなどの公共機関を乗り継ぐかツアーの車でしかたどり着けないというアクセスの難しさが逆に魅力となっている。

ラオス料理はもち米に豊富な生野菜のサラダ、若いパパイヤやトマトを魚醤で味付けしたタム・マークフン(タイ料理でいうソムタム)というサラダなど新鮮な野菜が必ずテーブルには並ぶ。さらにラープと呼ばれる肉や魚にレモン、ライム、香草を混ぜて炒めた料理など、メコン川の幸と呼べる川魚を焼いたり蒸したりした料理は質素で健康的だ。

また人口の約90%が敬虔な仏教徒であることから、各地に仏教寺院があり、日々熱心に祈りを捧げる人びとの姿がみられるなど、平和で穏やかな時間が悠然と流れていることも魅力のひとつだろう。

こうした農業国らしいのどかな風景が拡がるラオスだが、一方ではベトナム戦争当時、北ベトナムの物資人員輸送補給路「ホーチミンルート」となったため、米軍の猛爆を受け「世界で最も空爆された国」ともいわれる。カムアン県のレストランや展示館には当時の不発弾が展示され、ビエンチャンには不発弾による被害で負傷した人びとを支援する資料館「コープ・ビジター・センター」があり、夥しい数の義手や義足が展示され、いまなお事故が起きる不発弾被害の実態を伝えている。

ラオス情報文化観光省によると、2018年にラオスを訪れた外国人観光客は前年から8.2%増えて約410万人になった。そして2019年には少なくとも450万人の来訪で観光収入7億ドルを見込んでいるという。日本では、2019年11月にラオス航空が熊本空港とビエンチャン、ルアンバハーンを週に2回結ぶ直行便を運航する計画があり、定期直行便の就航でこれまで遠かったラオスがようやく近くなる。

今回、中部ラオスを訪れて感じたのはこの国が「何もない国」そして「何かに出会える国」であるということだ。その何かとは、手付かずの自然であり、その自然の恵みを活かした地元料理であり、どこまでもおおらかで親しみやすい笑顔にあふれた人たちという、今東南アジア各国が失いつつあるものだった。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付

ワールド

訂正-韓国大統領、日米首脳らと会談へ G7サミット

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中