日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由

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2025年9月23日(火)12時00分
巽 孝之(慶應義塾大学文学部名誉教授、慶應義塾ニューヨーク学院長)

むろん、文学作品の大胆な国際的商品化戦略については、強い抵抗感を示す読者も少なくあるまい。しかし日本文学の側にしても、泉鏡花の専門家で『化鳥』の卓越した英訳もある若手ピーター・バナードが研究するように、平井呈一や日夏耿之介によるブラム・ストーカーやエドガー・アラン・ポーなど英米ゴシック文学の創造的翻訳がなかったら、わが国に怪奇幻想文学が定着することは困難だったことも、ここで考え合わせるべきだろう。

これが伊藤典夫によるカート・ヴォネガットの創造的翻訳になると、前述したように、それが影響を与えた村上春樹らわが国のポストモダン文学が、さらに英米作家へ逆影響するという世界文学的再循環の構図を露呈している。


21世紀に優秀な翻訳者が急増

しかし新世紀に入って、卓越した日本語能力を備えた英語圏翻訳者が幾何級数的に増大すると、事情は一変する。前掲『OUT』を翻訳したスティーブン・スナイダーのように、原作小説に忠実でありながら、その魅力を倍増させる技法が磨かれるようになったのである。

日本のソフトパワーが「クールジャパン」としてグローバルな影響力を発揮するようになるのは2002年以降といわれる。まさにこの02年は、筆者の北米における共同研究者でサンディエゴ州立大学教授ラリイ・マキャフリイが新しい文学的文化戦略「アヴァン・ポップ」を促進し、それを軸に日米最先端文学がいかに共振関係を結んでいるかを探究した成果を、雑誌「レビュー・オブ・コンテンポラリー・フィクション」の「新しい日本小説」特集号として共編刊行した年に当たる。

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