羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援を続ける羽生が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

Lending a Helping Hand

2024年10月4日(金)17時11分
小暮聡子、大橋 希(本誌記者)

羽生結弦

TORU YAGUCHI FOR NEWSWEEK JAPAN

──羽生さんは今年6月、日本テレビの報道番組『news every.』の取材で輪島市を訪れました。今回のチャリティー演技会は、どんな思いで滑ったのでしょうか。

ちょっとでも笑顔になってもらいたいという思いが一番強かったです。能登を訪問したときにみなさんが「昔はこうだったんだよ」「こんなことがあって楽しかったんだよ」と話しているときの笑顔がどうしても忘れられなくて。


現在の話や未来の話をされているときにはその笑顔が少なくなっていくのを実感したので、この「今」という時に笑顔になったり、優しい気持ちや温かい気持ちになったり、そんな輪が広がったらいいなという思いで滑りました。

──演技会では照明などに凝らず制作費を抑えて、収益をできるだけチャリティーに回すことを考えたと聞きます。羽生さん自身、これまでにアイスリンクや被災地に対して行った寄付は3億円以上になるそうですが。

練習拠点にしていたリンクが東日本大震災で使えなくなったとき、荒川静香さん(フィギュアスケート五輪金メダリスト)が宮城県や仙台市に働きかけてくださったおかげでリンクが復活しました。

そうしたいろいろな支援の輪、いろいろな方々の思いが僕のオリンピックの金メダルにつながったと常に思っていて。だからこそ、自分が本当にお世話になったリンク(への寄付)もそうですし、たくさん応援してくださった被災地の方々の力になりたいという気持ちでいます。

──仙台市内で被災したとき、羽生さんは16歳。その経験は、羽生さんのその後のスケート人生にも大きな影響を与えたと想像します。被災当時の記憶について話していただけますか。

あの直前、震度5を含む地震が何度もあったのですが、リンクが壊れるほどではなかった。だから3月11日の地震が起きたときも最初は大丈夫だろうと思っていて、一般のお客さんもいる時間だったので、僕は「みなさん、大丈夫ですよ」と落ち着かせる立場でした。

でもだんだん地震が長く、大きくなっていき最終的に電気が消えて、ガラス戸がぶつかる大きな音がして、建物も倒壊するのではないかというほどひび割れて......。そういう轟音の中で地震を体験しました。

あのときは相当しんどかったですが、とにかくスケート靴は肌身離さず持っていました。避難所では電気がつかなかったので、空を見ながら「星、きれいだな」と思ったり、灯油のストーブにあたったりしたのを覚えています。

ライフラインは簡単に戻らないし、スケートのことを考えている余裕は全くなかった。でも多くの方々がチャリティー演技会を企画してくれて、それがきっかけでスケートの練習をしなくちゃ、と考えるようになりました。

さまざまなアイスショーでも被災地を応援しようという空気がありましたし、(ショーの前に)リンクに早く行って練習をさせてもらうなどの支援を受けながら、スケートを続けることができました。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中