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オアシス再結成で露わになる搾取...「ダイナミック・プライシング」の闇

Ticket Fights

2024年10月3日(木)19時20分
イモジェン・ウェストナイツ(作家、ジャーナリスト)

新型コロナウイルスの感染爆発に伴うロックダウンが終わって、有観客のライブが再開されたのはうれしい。でも念願のチケットを手に入れようとするたびに業界の露骨な金儲け主義を見せつけられる。

その象徴が「ダイナミック・プライシング」。需要が増えるにつれて価格がつり上がる仕組みだ。22年にはブルース・スプリングスティーンのツアーチケットが販売された際にこの仕組みが適用され、チケット価格が最高5000ドル(約71万円)に跳ね上がり、ファンが激怒した事例がある。昨年アイルランドのスレイン城で行われたハリー・スタイルズのコンサートでも、同じような問題が起きた。


テイラー・スウィフトの「エラズ」ツアーのチケットを販売した「チケットマスター」のサイトがクラッシュして大混乱した問題も、ファンの大きな怒りを買った。この問題は米司法省がチケットマスターを訴追する事態にまで発展した。ちなみに、これだけ問題が起きてもダイナミック・プライシングを禁止する動きはない。

ファンにとって、自分の好きなバンドがコンサートをするというニュースに心からワクワクできるのは最初の10分程度。その先には厳しい現実が待ち受けている。まずはオンラインの行列に何時間も並ばされ、当初価格の3倍もの金額を提示され、それに応じるかどうかを数秒間で決めさせられる。その時になって初めて、みんな気付く。これって、搾取じゃないの?

金持ちをより金持ちに

そのとおり。実に筋の通った議論だと私は思う。今はストリーミング全盛の時代だから、ミュージシャンもこれまで以上にライブで稼ぐ必要があり、コロナ禍を生き延びたコンサート会場が運営に苦しんでいるといった事情はもちろん承知している。

しかし、それでもだ! 当初140ポンド(約2万6000円)だったチケットが355ポンド(約6万6000円)にもなるのは間違っていると思う。全ては「市場原理」だと人は言うかもしれないが、そうでもない。現に米司法省はコンサート運営大手ライブ・ネーションを独占禁止法違反で提訴している。

「老いた兄弟が再び同じ舞台に」といった表面的には軽薄なニュースで大騒ぎするのは愚かなことかもしれないが、こんな現象が繰り返されるのを見ていると気がめいる。

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