最新記事
昆虫

なぜ日本のカブトムシだけが独自進化? オスのケンカ必勝法・メスの交尾スタイル、どれも海外に例がなく大きな謎

2023年8月30日(水)12時40分
小島 渉(山口大学理学部 講師) *PRESIDENT Onlineからの転載

カブトムシのけんかをよく観察してみてください。最初にオスは必ず相手の体の下に角を入れようとします。相手を木の幹からすくい上げ、引きはがすためです。相手も引きはがされないように、頭部を下げて応戦します。しかし、一瞬の隙を突き、相手の体の下に角を挿入するやいなや、勢いよく頭部を後方にひねり、相手を投げ飛ばします。

このように、瞬間的な爆発力で相手を投げ飛ばすようなけんかのスタイルは、ヘラクレスオオカブトなどの外国のカブトムシにはあまり見られません。熊手のような形をした日本のカブトムシのオスの頭部の角は、そのような戦いにもってこいの形をしていることから、けんかの様式と角の形はリンクして進化してきたと考えられます。

「カブトムシ対クワガタムシ」は自然にはない

ところで、図鑑などには、カブトムシがクワガタムシを投げ飛ばしている写真や絵がよく登場します。私も子どもの頃に、カブトムシをノコギリクワガタなどのクワガタムシと対戦させて遊んだことがあります。しかし、本来カブトムシの角はクワガタムシなどの他の昆虫を投げ飛ばすためのものではありません。あくまでも、同種のオスを打ち負かすために進化してきた武器です。

そもそもカブトムシとクワガタムシの活動のピークのシーズンはずれているため(クワガタムシがカブトムシを避けるためと言われています。Hongo 2014)、両者が野外で出会う機会は、カブトムシのオスどうしが出会う機会に比べれば多くありません。そのため、クワガタムシvsカブトムシのような異種間対決は、最強の昆虫を決めたい子どもにとって夢がありますが、進化という視点に立つと、残念ながらそれほど意味のある実験とは言えません。

それよりも、同種どうしが対決したときの行動を観察する方が、武器の進化について多くの情報が得られるはずです。

なぜメスのカブトムシには角がないのか

しかし、カブトムシだけでなくクワガタムシやシカ、カニなど、他の動物を見ても、より大きな武器を発達させているのはメスではなくオスの方です。これには、武器を作るコストが関わっています。

けんかに勝つためには大きな武器が必要ですが、それを作るためには多くのエネルギーが必要です。メスが大きな武器を作ろうとすると、繁殖に割くエネルギーが目減りし、産卵数が減ることになります。そうなると、自分の遺伝子を残すうえで不利になります。一方、精子は卵よりも"安価"に生産できます。

また、たとえ作れる精子の数が少々減ったとしても、大きい武器を持てば、オスはより多くのメスと交尾できる可能性が高まります。メスは交尾相手の数が増えても産卵数は増えませんが(そもそもカブトムシのメスは一度しか交尾しません)、オスは、交尾相手の数が増えれば増えるほど、残せる子の数が増えてゆきます。

つまり、オスは、大きい角を持つことで、それを作るためのコストを上回る利益が得られます。これこそが、多くの動物で、オスの方がより発達した武器を進化させた理由です。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀は8日に0.25%利下げへ、トランプ関税背景

ワールド

米副大統領、パキスタンに過激派対策要請 カシミール

ビジネス

トランプ自動車・部品関税、米で1台当たり1.2万ド

ワールド

ガザの子ども、支援妨害と攻撃で心身破壊 WHO幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中