国に殺された夫の戦いを「意義あるもの」に...ロシア元スパイ毒殺事件を、いま語る重要性
Litvinenko Is Never Silenced
本作はレビエバ演じる妻マリーナの人生にも焦点を当てている ITVX/SUNDANCE NOW
<「国家による毒殺」という衝撃の事件を描いたドラマ『リトビネンコ暗殺』。主演俳優が語るその意味と、「正しく」伝えることの責任>
興味をそそられるだけでなく、引き受けるべき重大な挑戦でもあった。アレクサンドル(愛称サーシャ)・リトビネンコが「決して口封じされない」ために――。
ドラマ『リトビネンコ暗殺』(スターチャンネルEXで独占配信中)でリトビネンコを演じたことについて、イギリス人俳優デービッド・テナントは本誌にそう語る。
旧ソ連の情報機関KGB、およびロシア連邦保安局(FSB)の元職員で、イギリスに亡命したリトビネンコに突然、異変が起きたのは2006年11月1日。毒を盛られたのだと、彼は察知した。それだけではない。差し迫る自分の死は、ロシア政府の承認によるものだということも。
自らの死後に捜査が行われるよう、リトビネンコはロンドン警視庁に連絡を取った。
投与された毒物は放射性物質ポロニウム210と判明した。英内務省の公開調査委員会は16年1月、元KGB職員アンドレイ・ルゴボイとロシア人実業家ドミトリ・コフトゥンがFSBの指揮の下、毒殺を実行したと判断。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が殺害の承認に関わった可能性が高いと発表した。
一方、ロシア側は事件への関与を一切否定している。容疑者のルゴボイとコフトゥンも無実だと主張した。
一連の経緯を映像化したのが、全4話の『リトビネンコ暗殺』だ。主演のテナントによれば、こうした作品は事件を記憶にとどめる力になる。
リトビネンコの死は当時、世界中に衝撃を与えた。テナント自身、「この事件の報道があふれ返るなか」「恐ろしくて、どこか信じ難い真実」を見たような気がしたことを覚えている。
特に今という時代にこの物語を語ることに興味を持った、とテナントは語る。「リトビネンコの並外れた勇気と、事件を繰り返し語り、何が起きたかを明らかにしようとする(リトビネンコの妻)マリーナの勇気にも興味が湧いた」
並外れた男の並外れたレガシーを伝える女の物語
カギになったのはマリーナとの対面だった。夫の精神を生かし続けるという彼女の使命の重要さは理解していた。
「役作りのためにマリーナと会った。その後は、もはや政治がテーマではなく、家族と人間をめぐる物語、並外れた男性の並外れたレガシーを伝えてきた女性の物語になった。それは彼女が選んだつもりの人生ではなかったが」と、テナントは話す。
「おそらく究極的には、事件について語り、証言し、記憶し、アレクサンドルの行動を意義あるものにすることが、彼女にとって一種の責務になっている。夫が決して、沈黙させられないようにすることが。本来は、そうなるはずだった。彼は口を封じられるはずだった」