最新記事

日本

日本人は「小ぶりなライフスタイル」を誇りに思っていい

TINY & TOP

2022年8月2日(火)20時05分
アズビー・ブラウン(建築家、作家)
狭小住宅

限られた面積を最大限活用するノウハウが詰まった日本の小さな家は、外国でも注目されている HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<東京を特別にしているのは、江戸時代から受け継がれてきた空間の使い方。町そのものが多くの役目を果たすため、コンパクトな暮らしでも生活の質は下がらない>

(※本誌8月9日/16日号「世界が称賛する日本の暮らし」特集より)

東京は近年、世界で最も住みやすい都市ランキング上位の常連だ。それも驚きではない。

清潔で確実で効率的な公共交通機関や低い犯罪率を理由に挙げる声は多いが、生活の質を決める要素はほかにも数多い。東京を特別にしているのは、空間の使い方だ。

東京の素敵な意外性の1つが、街路や建物が巨大都市のスケールを見せるにもかかわらず、飲食店でも住宅でも、室内にはこぢんまりとした親密感があること。おかげで人々が実際に集って時間を過ごす場所では、人間味のある交流ができる。

世界の主要都市のうち、最もリーズナブルな物件が東京で見つかるという発見には驚く。欧米の大半の大都市では、所得が平均レベルなら、中心部に住むのは経済的に無理だ。だが東京では、それも難しくない。

限られた都市空間を最大限に活用し、生活をより手頃なものにするために、この町では設計士や住民が独特のノウハウを駆使する。江戸時代に根差し、長屋で生活していた先祖から受け継いだこの知恵の要は、コンパクトさと融通性だ。

昔ながらの「間(けん)」を単位とする建築寸法が普及しているから、空間を無駄遣いしない調度や電化製品が簡単に見つかる。

折り畳み式や多用途のテーブル、寝床、戸棚や椅子がどこの家にもある。ホームセンターに行けば、多彩な収納アイデアに圧倒される。日本人の妻が私に教え込もうとしているように、なるべく場所を取らないように服を畳むのも、こうした知恵の1つだ。

町そのものが数多くの役目を果たしてくれるため、コンパクトな暮らしでも生活の質は下がらない。冷蔵庫やキッチン収納が欧米より小型でも問題ないのは、江戸時代と同じく、安価で高品質の料理が近所で手に入り、出前もしてもらえるからだ。

東京では、家の外が暮らしの舞台になる。おかげで空間をめぐるストレスが減り、自宅を私的な場としてフル活用できる。多くの国と異なり、パーティーやお祝いは家ではなく、飲食店で行うのが普通だ。

もちろん、自宅でもてなせたらいいのにと願う人は多いが、家に十分なスペースがなくても人付き合いは制限されない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 150億ドル

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中