最新記事

ドラマ

在日コリアンの苦難を描く『パチンコ』を、「反日ドラマ」と切り捨てていいのか

The People Endured

2022年5月19日(木)18時04分
アリシア・ハディック
ドラマ『パチンコ』

チョン・ユナが演じている主人公ソンジャの幼少期 APPLE TV+

<韓国系作家がアメリカで発表したヒット小説のドラマ版は、過去に責任のない現代人が、過去を知ることの大切さを訴える意欲作>

アップルTV+で配信中の『Pachinko パチンコ』は異色のドラマ。日本の植民地政策と在日韓国・朝鮮人のアイデンティティーというテーマに、正面から挑んでいる。

1910年、日本は大陸進出の一環として韓国を併合した。このため朝鮮半島では後に多くの人々が強制労働で日本の経済を支え、慰安婦として日本軍に徴用された。あるいは貧困から抜け出す機会のない祖国を離れ、追われるようにして国外に出た。

第2次大戦が終結して日本の統治が終わる頃、もう祖国は存在していなかった。アメリカとソ連が朝鮮半島を分割占領したからだ。

それでも、ドラマの幕開けでテロップが語るように、「人々は耐え忍んだ」。

原作は、韓国系アメリカ人作家ミン・ジン・リーの同名小説。『パチンコ』はある家族を中心に、植民地支配が韓国・朝鮮人に及ぼしてきた影響を約70年間にわたってあぶり出し、植民地主義が差別意識として根強く残る現状を浮き彫りにする。

主人公のソンジャは、釜山の下宿屋の娘。朝鮮人ヤクザのハンスとの出会いが、貧しい彼女の運命を変える(若き日のソンジャを新星キム・ミンハ、晩年を『ミナリ』のユン・ヨジョンが演じている)。

220524p52_PCK_02.jpg

主人公ソンジャの若き日を演じているキム・ミンハ(左) APPLE TV+

植民下の暮らしは厳しい。食料は乏しく、日本の警官には手荒い扱いを受ける。

31年、16歳のときに妻子あるハンスの子を妊娠したことで、ソンジャの人生は一変する。事情を知る若い牧師イサクのプロポーズを受け入れ夫婦で大阪に渡るのだが、日本は希望の地には程遠かった──。

ソンジャの体験は、デマが発端となって多くの命が奪われた関東大震災(23年)直後の朝鮮人虐殺などの出来事と共に回想形式で描かれる。

エリートとして日本に帰国した3世

小説と異なり、ドラマではソンジャの孫で在日3世のソロモンの視点からストーリーが展開する。

ソロモンの人生はソンジャとは対照的だ。彼はアメリカの大学を出て銀行に就職したエリート青年で、89年に大規模な地上げ交渉をまとめるためにアメリカから帰国する。

東京であるホテルの建設計画が進み、土地の買収はほぼ終わったのだが、いくら大金を積んでも立ち退きを拒む家が1軒ある。地権者で在日1世の女性グムジャは、この家で余生を思いどおりに過ごすと決めているのだ。

ソロモンはグムジャを口説き落とそうと自身の在日のルーツをアピールし、さらには祖母に応援を頼む。

3人はグムジャの家で食卓を囲み、老女2人は故郷を懐かしむ。2人は20~30年代に日本に渡った世代。ほぼ一生を過ごしてきた日本で、今もその国籍を持たずに暮らしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物急落、サウジが増産示唆 米WTI21年3月

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米GDPは3年ぶりのマイナ

ビジネス

FRB年内利下げ幅予想は1%、5月据え置きは変わら

ワールド

EU、米国の対ロシア政策転換に備え「プランB」を準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中