最新記事

映画

やはりスピルバーグは素晴らしい! リメイク版『ウエスト・サイド』の絶妙さ

West Side Story Today

2022年2月11日(金)15時50分
デーナ・スティーブンズ
『ウエスト・サイド・ストーリー』

スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』の 一場面。中央がトニー(エルゴート)とマリア(ゼグラー) ©2019 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

<『ウエスト・サイド・ストーリー』リメーク版はアメリカ現代社会が直面する諸問題を反映させ、「時代遅れの古典」から脱皮させたスピルバーグの名作>

もしもスティーブン・ソンドハイムが公開直前に死去(昨年11月26日、享年91歳)していなかったら、スティーブン・スピルバーグ監督によるリメーク版『ウエスト・サイド・ストーリー』(アメリカでは同12月10日公開)の受け止め方は違っていただろう。湿っぽさはなく、広く愛されながらも疑問の多いこのミュージカルに、辛辣な批評も聞かれたはずだ。

ソンドハイムもそれを望んでいたに違いない。生前、彼は自分の書いた詞を「若気の至り」で恥ずかしいと言っていたし、たまには他人(この場合は巨匠レナード・バーンスタイン)の曲に詞を付けるのもいいものだと師匠に諭されなければ引き受けなかったとも語っている。

だがソンドハイムの死を契機にミュージカルの歴史は見直された。『ウエスト・サイド・ストーリー(WSS)』を今──ブロードウェイでの初演から64年、ロバート・ワイズ監督らによる元祖映画版の公開から60年を経た今──新たに映像化したことの意味が問われているのも事実だ。

1950年代のニューヨークでの人種間抗争を背景にした悲恋の物語を21世紀の今になって撮り直すなら、誰が誰を演じ、どんな言語で歌うべきなのか。

そもそも半世紀以上前に4人の白人(ソンドハイムとバーンスタイン、脚本のアーサー・ローレンツ、振り付けのジェローム・ロビンズ)が生み出した作品を、またしても白人の男たち(スピルバーグと脚本のトニー・クシュナー、振り付けのジャスティン・ペック)が再解釈するのは適切だったのか。

ちなみにWSSの生みの親はロビンズだ。1947年、彼は普及の名作『ロミオとジュリエット』のニューヨーク版をやろうと思い立ち、バーンスタインとローレンツに協力を求めた。

当初は『イースト・サイド』だった

当初のタイトルは『イースト・サイド・ストーリー』。ロウアー・イーストサイドを舞台に、アイルランド系カトリック教徒の少年と東欧系ユダヤ教徒の少女の禁じられた恋を描くというのがロビンズの腹案だった。

だが完成した初稿はボツになった。かつての人気芝居『アビーの白薔薇』に、テーマも物語も似すぎていたからだ。この芝居は1922年に初上演され、その後もラジオの連続ドラマとして放送されたが、人種や民族に関する偏見を助長するとの抗議が出て45年に中止されていた。

そこで原案から宗教的な要素を削り、舞台をウエストサイドに移し、人種的な対立だけに焦点を当てた。その結果生まれたのが元祖ブロードウェイ版のWSSだ。

作中でいがみ合うのは、白人とプエルトリコ系の不良少年団。当時の現実を反映し、社会問題に「進歩的」な姿勢を示す狙いだったと思われる。ミュージカルの古典的スタイルと現代的スタイルを融合させ、ダンスを中心に据えたのも斬新だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、鉄鋼関税50%に引き上げ表明 6月4日

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中