最新記事

フィギュアスケート

「4回転アクセル初認定」羽生結弦のジャンプが世界一美しい理由

A HISTORIC JUMP

2022年2月18日(金)17時35分
茜 灯里(作家、科学ジャーナリスト)
羽生結弦

転倒はしたものの、フリーでの4回転アクセルは世界で初めてISUの認定を受けた 時事通信

<北京冬季五輪のフリープログラムで、世界で初めて4回転アクセル(4回転半ジャンプ)をISUから認定された羽生結弦。羽生のジャンプの秘密やライバルのネイサン・チェンとの違いを、科学ジャーナリストが徹底解説する>

フィギュアスケート男子の羽生結弦は、北京五輪を4位で終えた。だが、国際スケート連盟(ISU)公認の国際試合で初めて4回転アクセル(4回転半ジャンプ)を認められた者として、歴史に名を刻んだ。

フィギュアの男子/女子シングルはショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)の総合点で競い、各演技は技術点と演技構成点で採点される。

技術点では選手が決められた数のジャンプ、スピン、ステップを実施し、審判員が個々の要素を基礎点と出来栄え点(GOE)で評価する。演技構成点ではスケート技術、要素のつなぎ、演技力、構成力、曲の解釈の5項目を評価する。

ショートに3回、フリーに7回含まれるジャンプの配点は、技術点のうちショートで7割、フリーで8割を占め、勝敗に最も影響する。

ジャンプの種類は基礎点の高いほうからアクセル(A)、ルッツ(Lz)、フリップ(F)、ループ(Lo)、サルコウ(S)、トウループ(T)の6種あり、同じジャンプなら回転数が増えるほど基礎点も高い。

特に男子では、4回転ジャンプの種類と成功回数が勝敗のカギとなる。北京五輪では前回五輪と比べてジャンプの基礎点が軒並み下がり、GOEが+5から-5までの11段階評価に拡大された。転倒や回転不足に対する減点も厳しくなり、北京五輪で勝利するためには、より質の高いジャンプの成功が必要となった。

羽生の武器は、世界一美しいと称されるジャンプだ。だが、ジャンプのうち、決まれば高得点をたたき出す半面、羽生自身もこれまでに成功したことがない4回転アクセルの挑戦には「金メダルを取るためには跳ばないほうがよい」と否定的な意見も多かった。

一方、最大のライバルで世界選手権を3連覇中のネイサン・チェンは、羽生よりも多種類、多数の4回転ジャンプを演技に入れられるのが強みだ。

ルール上、4回転アクセルが跳べないショートでは、実施予定の技術要素の基礎点の合計は、羽生が45.8点に対し、チェンは49.87点。フリーではさらに差が広がり、羽生が96.9点、チェンが101.24点だった。

両者は演技構成点ではほとんど差がつかないので、羽生は試合前から技術要素の計8点以上の差をGOEで補塡せざるを得ないというハンディを負っていた。それには大減点になる転倒や回転不足を防ぐのはもちろん、ジャンプの美しさや完成度をさらに高めてGOEを稼ぐ必要があった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中