最新記事

フィギュアスケート

「4回転アクセル初認定」羽生結弦のジャンプが世界一美しい理由

A HISTORIC JUMP

2022年2月18日(金)17時35分
茜 灯里(作家、科学ジャーナリスト)

羽生の技術あってこその挑戦

羽生のジャンプの美しさは、①高さと幅がある、②空中で回り切って余裕を持って着氷する、③空中での姿勢が真っすぐで、着氷時の姿勢も伸びやか、④助走が短く、着氷後もスピードが落ちないことにある。これらの特長は、GOEで加点を得られるだけでなく、羽生が4回転アクセルへの挑戦を現実的に考えられた要因にもなったはずだ。

①と②は、ジャンプの滞空時間が長いことを示している。滞空時間は跳躍の高さに依存する。例えば2019年世界選手権ショートの3回転アクセルを見ると、羽生は跳躍高が69センチで滞空時間は0.75秒だった。チェンも決して低くはないが、跳躍高が60センチで滞空時間は0.58秒だった。

ジャンプで跳躍高が高いと、離氷時の速度を無理に上げなくても飛距離(幅)を得られるので、助走を短くしたり直前まで独創的な振付を行ったりできる。さらに空中での姿勢が真っすぐでぶれないと、体の回転半径が小さくなって無駄がなくなり、着氷後もスピードが落ちにくくなる。

すなわち4回転アクセルは高い跳躍力を可能とする筋力と、無駄のない動きを身に付けている羽生だからこそ挑戦できたジャンプと言える。実際に、昨年末の全日本選手権で4回転アクセルに実戦で初めて挑戦した時は、両足着氷かつダウングレード(1/2以上の回転不足)で3回転アクセル扱いとなったが、73センチの大跳躍を見せた。

チェンは今年1月にインターナショナル・フィギュアスケーティング誌で4回転アクセルについてインタビューを受け、けがのリスクや3回転アクセルと比べて採点のうまみがないことを挙げて、習得には消極的な姿勢を見せた。

とはいえ、世界初の4回転アクセル成功者となり、フィギュア史に名を残したいと考える者も少なくない。

北京五輪に出場したキーガン・メッシングは、2018年に練習用補助具のハーネスを使って4回転アクセルを跳ぶ動画をSNSに投稿。3年前から5回転ジャンプに取り組むダニエル・グラスルは最近、4回転アクセルの練習も始めた。

今年の全米選手権2位で次世代エースと目される17歳のイリヤ・マリニンも、4回転アクセルの習得に興味があるという。

羽生以外で4回転アクセル成功に最も近いのは、アルトゥール・ドミトリエフだろう。2018年にISU公認試合のロシア杯で挑戦し、ダウングレードの判定で認定されなかったが、今年1月の全米選手権では国内試合とはいえアンダーローテーション(1/4以上1/2未満の回転不足)の判定で4回転アクセルが認定された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国当局、国有企業にチベットへの産業支援強化求める

ワールド

トランプ氏に解任権限なし、辞任するつもりはない=ク

ワールド

ラセンウジバエのヒトへの寄生、米で初確認 情報開示

ビジネス

午前の日経平均は反落、FRB理事解任発表後の円高を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中