最新記事

ドキュメンタリー

この時代に再評価される幻の音楽フェス、半世紀前の熱狂がよみがえる

An Ode to Black Music

2021年8月27日(金)17時58分
ジャック・ハミルトン

210831P50_SOS_01.jpg

観客を熱狂させたスライ・ストーン ©2021 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED

映画では、観客の証言が胸を打つ。69年当時に多感な年頃だった人々が、人生を揺さぶった音楽体験を感慨深そうに振り返るのだ。

だが一番の目玉はやはり音楽で、ジャンルはポップス(デービッド・ラフィン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス)、ブルース(B・B・キング)、ジャズ(マックス・ローチ、アビー・リンカーン)にラテン(モンゴ・サンタマリア)と実に多彩。ハーレム在住のシニア層にすれば、フィフス・ディメンションのようなロックグループとファンの群れに日曜の静けさを乱されるのは迷惑だったろう。演目にゴスペルを盛り込んだのは、お年寄りへの「和平工作」かもしれない。

スターぞろいのステージは、もちろん見応えたっぷりだ。

2世代のゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンとメービス・ステイプルズが、マーチン・ルーサー・キングの愛した「プレシャス・ロード」で競演。19歳のスティービー・ワンダーがクラビネットで熱いソロを聞かせる「シュ・ビ・ドゥ・ビ・ドゥ・ダ・デイ」は、70年代に迎える黄金期のサウンドを予感させる。

音楽フェスの不都合な真実

60年代の代名詞とされる有名フェスには、不都合な真実がある。出演者のラインアップも企画の在り方も、圧倒的に白人寄りだったのだ。

平等なユートピアというイメージのウッドストックだが、ビルボードのR&Bチャートをにぎわせていた出演者はスライ&ザ・ファミリー・ストーンのみ。会場は辺ぴな場所にあり、都会の黒人にはアクセスが悪かった。

この排他性がどこまで意図したものかは議論が分かれる。だがウッドストックが想定した「音楽を愛するヒッピー」は白人で、映画の視点もそんな見方を反映していた。プロの撮影班によるハーレムのフェスの映像がお蔵入りになった背景にも、この偏りがあるのだろう。フェスは「黒いウッドストック」と呼ばれてきたが、この表現は誤解を招く。だいたいこちらの初日は6月29日で、ウッドストックより1カ月半も早い。

だが当時の制作者は映像を「黒いウッドストック」として売り込んだ。買い手が付かなかった理由はさまざまだろう。1つにハリウッドでは長年、「黒人映画」は集客数が読めないと信じられていた。音楽祭は白人のものという考え方も定着しつつあった。

黒人の聴衆に焦点を当てた点でも『サマー・オブ・ソウル』の功績は大きい(ステージにも客席にも白人はいるが、見るからに少数派だ)。

黒人アーティストのライブ映像自体は珍しくない。この映画が特別なのは、黒人の音楽ファンとその喜びに賛歌をささげたからだ。こうした題材は60年代神話においても音楽史においても記録からこぼれ、置き去りにされてきた。

観客とアーティストが一体となって音楽を分かち合う喜びは、なんと普遍的でかけがえのないものなのか。そんなことをしみじみ感じさせてくれるのも、『サマー・オブ・ソウル』の素晴らしさだ。

SUMMER OF SOUL
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
監督/アミール・“クエストラブ”・トンプソン
主演╱スティービー・ワンダー、B・B・キング

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 9
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中