最新記事

カルチャー

「オタ活」がはらむリスクに無自覚な若者たち──オタクコミュニティの残念な現実とは

2021年1月4日(月)16時40分
廣瀨 涼(ニッセイ基礎研究所)

筆者は、SNSにおけるオタクのコミュニティの性質を十分に理解しないで若者が他のオタクと交流することに危機感を抱いている。オタクという言葉が気軽に使われるようになった結果、若者がオタクのコミュニティの実態を知らないまま気軽にコミュニティ参加してしまい、自身の抱いていたイメージとの間にギャップが生じてしまうという現象が起きているためである。

筆者はこの要因として、「ファン資本」と「コンテンツ市場の性質とオタクの定義」が関係していると考えている。(図表1参照)

Nissei201228_data1.jpg

ファン資本

ファン資本とは、ファンコミュニティで相互作用を行うための元手となるもののことである。オタクのコミュニティにおいては、オタク同士の情報交換や交流といった「相互作用」が不可欠である。

Twitterで言えば有益な情報を発信することが、他のオタクたちにとって"ため"になることであり、その情報は、より多くのオタクに拡散されることで、情報としての価値を高める。つまり、他のオタクから承認されたり、狭義のコミュニティを拡大するうえで、いわばその元手となるのがファン資本なのである。

ただ、このファン資本は、実社会における実資本によって成立しているということを、多くの若者は認識してはいない。この場合における実資本とは、我々自身の経済力や人脈、スキルといった社会生活を送る上での元手のことであり、その中には経済資本、社会資本、文化資本が存在する。

実社会のコミュニティでは、相手の人となりを日常の交流を通して認識していくが、SNSにおけるコミュニティは繋がり合うきっかけが「趣味嗜好」であるため、相手の本名はおろか、年齢や性別もわからないまま交流をすることが一般的である。

そのため、趣味嗜好に対するベクトルのみが接点であるがゆえに、SNSにおけるオタクのコミュニティでは、一見、実社会における社会的立場はフラットな状態に見える。しかし、フタを開ければ交流をしていた相手が確固たる経済基盤を持った大人ということもありえる。

その結果、このように実社会での人となりを考慮に入れず、他のオタクの消費行動を顧みて、若者オタクの間で身の丈に合わない高額浪費がされたり、経済力がないことに対する劣等感が生まれることが問題なのである。

コンテンツ市場の性質とオタクの定義

オタクという言葉に対する定義や認識が、従来のオタクと若者の考えるオタクとでは大きく異なる(図表2参照)。

Nissei201228_data2.jpg

従来のオタクは、他人から認識されることで成立しており、レッテルとしての側面が強かった。他人からオタクと思われたらオタクであり、決して自称するものではなかった。一方、最近の若者は、自称することでオタクは成立すると考えており、アイデンティティを顕示するように自身がオタクであることを発信している。

また、他のオタクは自身にとって比較対象ではなく、あくまでも仲間であるという考えが強い。この全く異なる認識を持ったオタクが消費者として、同じ対象物を消費しているということを若者が認識していないという事が2つ目の問題である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米地裁、テキサス州の選挙区割りを一時差し止め 共和

ワールド

米フリーポート、来年7月までにグラスバーグ鉱山再開

ワールド

WHO、来年6月までに職員2000人以上削減へ 米

ビジネス

メタがアプリ買収巡る反トラスト法訴訟で勝訴、地裁は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中