最新記事

映画

是枝監督、次回作は「パラサイト」のソン・ガンホら主演で韓国映画に挑戦 ところで「韓国映画」の定義とは?

2020年8月31日(月)21時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

極めて異例な韓国映画での外国人監督起用

これまで、外国人監督を起用した韓国映画は他に何があるだろうか。オダギリジョーや、國村隼、上野樹里、リーアム・ニーソンなど、完全なる韓国映画に外国人俳優の起用は数あれど、監督のみの起用は珍しい。

アニメーション映画『さよなら、ティラノ』は、日本人の静野孔文氏が監督を務め、企画や投資、開発を韓国が行った。しかし、アニメ製作は手塚プロが担当し、純制作資金49億ウォンのうち85%が韓国、15%を中国が出資しているため、これは日中韓合作の要素が強い。

『キムチを売る女』で有名な中国出身のチャン・リュル監督も、韓国で多くの作品を撮っている。しかし、監督は韓国系中国人であり、インタビューでは韓国語を話し、延世大学で教授をするなど生活の基盤が韓国にあるようで、是枝監督のケースとは違っている。

では逆に、スタッフキャストのほとんどが日本人の作品で、韓国人が監督を努めた作品と言えば、映画『彼岸島』のキム・テギュン監督が思い浮かぶ。また、映画『サヨナライツカ』もイ・ジェハン監督も日本制作で日本人俳優起用の中メガホンを取ったが、こちらは韓国人スタッフもかなり参加していたため、どちらかと言うと合作作品の要素が強い。

日韓を問わず、合作映画の現場ではさまざまなトラブルが発生する。同じ国同士のスタッフでさえ衝突が起き、ただでさえストレスの溜まる現場で、言葉の意思疎通がうまくできない問題は大きい。また、日韓でいえば、似ているとはいえ少しずつ異なる撮影システムに、意見がぶつかり合うことが多い。

そして、映画の現場や専門用語に精通した通訳/シナリオ翻訳者なども数人採用しなくてはならないため、費用問題も付きまとう。

韓国映画であるための必須条件とは?

さらに、意外と知られていないのが、韓国で映画を映画として認めてもらうために必ず通過しなければならない映像物等級審議委員会による「等級審議」の問題もある。


韓国では国内映画を守るため、国内で上映できる外国映画の本数を制限するスクリーン・クオータ制が取り入れられているのは有名だが、等級審議でも外国映画との差別化がされ、10分単位の審議費用が約2倍違うなど、韓国映画はかなり優遇される。

では、合作や今回のように監督だけ外国人のような場合、韓国映画と外国映画の線引きはどうやってされているかというと、実は点数制で決められている。主演俳優何人が韓国人00点/監督が韓国人00点/原作00点のように採点し、ある一定の点数を超えると韓国映画と認定される。

今回のような大作ではそこまで痛手にはならないが、少しでも制作費を押さえたい低予算の作品などでは、まだまだ合作に手が出しにくいのが現実だろう。

今年は『パラサイト 半地下の家族』と、ネットフリックスによる韓国ドラマの再ブームなどで、韓国エンタメの力を世界に見せつけた年になった。これまで韓国作品に興味がなく、触れたことなかった人たちも、これを機会に初めて観てみたというケースも多いのではないだろうか。

これまで共通点の無かった初対面の韓国人と会話をする時「ああ、そういえば最近映画館で『パラサイト 半地下の家族』観たよ」「『梨泰院クラス』見たよ。あれ面白いね」と、話のきっかけづくりができる。それが作品の力だと信じている。

コロナ禍で先が見えない状況のなか、撮影準備を進めるのは通常より何十倍も苦労が伴うかもしれないが、この映画『ブローカー』も日韓双方の人たちが「あれ、良かったね」と話が弾むような素晴らしい作品になることを期待している。

【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中