最新記事

パックンのお笑い国際情勢入門

「日本にも政治風刺はある、強かったのは太平洋戦争のとき」早坂隆×パックン

2019年8月9日(金)19時45分
ニューズウィーク日本版編集部

早坂 近い国同士でジョークでやり合うのは、よくある。日本だと韓国や中国とやり合う。オーストラリアとニュージーランドもよくあるし、ブラジルとアルゼンチン、ルーマニアだとハンガリーとやり合っている。

パックン なるほど!

早坂 日本人には、ルーマニアとハンガリーといってもピンとこないですよね。実はトランシルバニアの領土問題もあったりして、えらい仲が悪いんですよ。やはり、近い国同士はもめ事も起きる。それを最近の日韓関係のように、悪口で攻撃的に言うんじゃなくて、ジョークにしましょうよ、ユーモアをもってやればいいじゃないというのは、ヨーロッパ人だと上手いのかもしれない。国境を接していて(そういう関係はたくさんあるから)。日本人ももっとユーモアにすればいいのに、ただの悪口になってしまう。

パックン そうですね。アメリカだと、カナダとかメキシコとか。僕は日本でもカナダをバカにすることにしているけど......でもそれは、害がないからですよ。カナダのほうが平均収入は高いし、健康寿命も長いし、(向こうは)バカにされても痛くもかゆくもない。僕はメキシコをバカにしない。むしろメキシコをバカにする、トランプをバカにするんです。

日本にジョークがない理由は、まず簡単にバカにできるグループが思い浮かばないこと。エスニックの違う人との触れ合いがほとんどなかった、ほぼ単一民族だから――まあ単一というのは言い過ぎだけど――、異文化がそんなに身近にないから特徴をつかんでジョークに使うのは難しい。

「東條内閣を笑うようなジョークが、実はあった」

早坂 歴史的に考えると、日本に本当にジョークがないのか、という話にもなる。落語の小話とか、ずっとあったわけなので。

パックン そこに社会風刺とか、政治に対する風刺もあった。

早坂 政治の風刺も、いろんな笑いの形がある中の1つ。例えば目黒のサンマ。(対談場所の)ここはまさに目黒ですけど。無知なお殿様を笑う、という。

パックン どういう話ですか。

早坂 これは長い落語なので、要約だけすると、あまり物事を知らない、お城にずっといるお殿様が街に出て、ちょうど目黒を通ったときにサンマを食べる。そのサンマがすごく美味しくて、それから「サンマといえば目黒」だと。目黒には海がないのに。

パックン それが今、目黒のさんま祭りにつながっている。

早坂 そうですね。

パックン 歌舞伎もまさに風刺があった。

早坂 歌舞伎はまさにそうですね。歌舞伎のほうがそうだった。

パックン 権力に対するユーモラスな抵抗を示す芸風は、日本にもある。

早坂 ただ、目黒のサンマもそうですけど、お殿様が誰とは言わない、名前はない。ちょっとほのぼのとした笑いにしている。例えばアメリカのような、大統領に対する毒のあるジョークとは違う感じがする。もちろん体制を笑うネタは日本にもあるが、落語全体を見ると、おっちょこちょいな大工さんだったり、とぼけた長屋の町人だったりを笑うもののほうがずっと多い。そのへんは日本人が穏やかな笑いを好むというのがもともとあると思う。

日本でも体制に対する笑いが強かった時代はあった。それは実は、太平洋戦争の時なんです。

パックン おぉ~!

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選資金集め、4月はトランプ氏が初めてバイデ

ビジネス

英GSK「ザンタック」、発がんリスク40年隠ぺいと

ビジネス

アストラゼネカ、シンガポールに15億ドルで抗がん剤

ビジネス

BMW、禁止対象中国業者の部品搭載した8000台を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中