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映画

フィルムノワールから生まれた、実写版ポケモンの古くて新しい世界

Bringing Pocket Monsters to Life

2019年5月23日(木)17時00分
モ・モズチ

相棒のティム役のスミスには、別の試練があった。ピカチュウはCGで描くため、撮影のリハーサルは操り人形で動きを再現した。だが本番では、スミスはカメラの前で1人で演技をしなければならなかったのだ。「筋肉の動きと視線と演技が、本当に素晴らしかった」と、レターマンは言う。「ジャスティスの苦労に誰も気が付かないくらい、全てが美しく溶け合っている」

アニメのキャラクターを使った実写版をどのように撮影するか。レターマンは数年前から東京とカリフォルニアを往復して、株式会社ポケモン社長でプロデューサーの石原恒和や、ほぼ全てのモンスターのデザインを手掛けた杉森健など、草創期からのクリエーターに話を聞いた。

「人々がポケモンはこうだと思っているものを、壊したくなかった。まさにアニメならではの姿形だ。現実に存在する動物をまねするのではなく、アニメという別世界を映像でリアルに表現したかった。そのためにロケ地で撮影したり、旧式のレンズを使ったりした」

『名探偵ピカチュウ』の基本は40~50年代の犯罪映画フィルムノワールと、レターマンは言う。そこで、デジタルではなくフィルムで撮影し、撮影監督のジョン・マシソンが熟練の技を駆使して、ざらついた「昼間の『ブレードランナー』の空気感」を強調した。どこか不完全さを残したのは、機械的な無機質さを感じさせないためだ。高度なデジタル映像の大ヒット映画は、数年後に無機質な印象しか残せないものだと、レターマンは言う。

製作チームは常に、あることを心に留めていた。「誰にでも好かれる映画を作ることは難しい。だから一番コアなファンのための映画を作ろう、と。そこを出発点に、どうすれば彼らに届くかを考える。とても情熱的なファンだから」

<本誌2019年05月28日号掲載>

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※5月28日号(5月21日発売)は「ニュースを読み解く哲学超入門」特集。フーコー×監視社会、アーレント×SNS、ヘーゲル×米中対立、J.S.ミル×移民――。AIもビッグデータも解答不能な難問を、あの哲学者ならこう考える。内田樹、萱野稔人、仲正昌樹、清水真木といった気鋭の専門家が執筆。『武器になる哲学』著者、山口周によるブックガイド「ビジネスに効く新『知の古典』」も収録した。

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