最新記事

映画

『マトリックス』『ファイト・クラブ』『ボーイズ・ドント・クライ』......1999年こそ映画の当たり年!

We Lost It at the Movies

2019年5月16日(木)18時00分
メアリー・ケイ・シリング

――年月を経て、評価が上がった映画は?

評価よりも見る目が変わった。『インサイダー』を公開時に見たときは、若きオタクとしてアル・パチーノとラッセル・クロウのガチな演技合戦に興奮した。報道サスペンスは好物だしね。今は企業の不正に警鐘を鳴らした点を評価したい。あれはたばこ産業批判に始まり、企業に屈しやすいジャーナリズムへの戒めとして終わる。

『シックス・センス』もそう。20代の僕には先の読めないクールなサスペンスだった。子供を持って初めて、どんなに頑張っても確実に子供を守ることはできないし、気持ちも完全には分かってやれないという親の不安を描いていると気付いた。

――『ハムナプトラ』にまるまる1章を割いたのはなぜ? 大ヒットしたが平凡な作品だ。

見ればなかなか楽しいよ。99年のハリウッドが遠く感じられる理由を説明するのにちょうどいいから、『アイズ・ワイド・シャット』と一緒に取り上げた。

あの頃はスターを出せばヒットが保証される時代で、だから彼らは破格のギャラをもらい、権力を握った。今、客を呼べるのはシリーズ物だ。新生『スター・ウォーズ』はいいキャストをそろえているが、スターがいなくても、次の『エピソード9』は公開直後に2億5000万ドルをたたき出すだろう。

99年はメル・ギブソンやハリソン・フォードやトム・クルーズの天下だった。特にトムが『アイズ・ワイド・シャット』に出たいと言えば、ハリウッドは他の企画を棚上げにして2年待った。それほどのドル箱だった。ジュリア・ロバーツ級になると、1億ドルのヒットをひと夏に2本飛ばした。

大手はギャラの高騰はもちろん、スターの権力が大きくなり過ぎるのを危惧し、安く使える若手を探した。そしてメジャーと独立系に交互に出演していたブレンダン・フレーザーに目を付け、超ビッグな夏休み映画『ハムナプトラ』を任せた。

――20年で最も劇的な変化は?

中間が消えたこと。最近の製作費は、150万ドルか1億5000万ドルの両極端。『スリー・キングス』や『ハイスクール白書』みたいな2000万~7000万ドルの映画を支えるシステムは存在しないと言っていい。

鑑賞方法の選択肢が増えて赤字をDVDで補塡できなくなり、大手スタジオは誰もが知っているシリーズ物が頼りになった。とりわけ巨大な中国市場でヒットする映画が。

文化的な対話を促す映画が消えてしまったみたいで、数年前は暗い気持ちになったよ。でも17年にはジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』やグレタ・ガーウィグの『レディ・バード』、昨年はポール・シュレーダーの『魂のゆくえ』が公開されたし、作家性の強い監督にもまだ居場所はあるようだ。

シリーズ超大作だって捨てたもんじゃない。『ブラックパンサー』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は心から満足できる。それでも斬新なアイデアに何千万ドルもの予算が付いた時代が懐かしい。

――99年の作品で、今だったら製作されそうにないものは?

代表作はどれも厳しいだろう。フィンチャーは超低予算でアングラ風にも作れるし、スター主演の大作にもできると言って『ファイト・クラブ』を20世紀フォックスに売り込み、後者で撮った。今なら超低予算版だな。

映画ではなく別の形になるかも。『ボーイズ・ドント・クライ』はドラマ化してもいい。『ハイスクール白書』の原作は緻密で登場人物の多い小説だから、HBOのミニシリーズ向きだろう。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』はポッドキャストで、謎の音源をめぐる実験的なホラードラマにできるんじゃないか。

観客がこういう作品を求めなくなったわけじゃない。ただ、映画館に行くとは限らない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中