最新記事

映画

ボルドーを翻弄する中国人の赤ワイン愛

ドキュメンタリー映画『世界一美しいボルドーの秘密』のワーウィック・ロス監督に聞く

2014年10月1日(水)17時02分
大橋 希(本誌記者)

富の象徴 ワインは文化であるとともに世界経済の動向とも切り離せない(中国人の収集家) © 2012 Lion Rock Films Pty Limited

 昨年、赤ワインの消費量で初めて世界一になったのが中国だ。フランスやイタリアで需要が減っているのを尻目に、中国の赤ワイン消費量は10年ほどで急速に伸びている。「幸運の色」として赤が好まれる文化的背景があるというが、なんといっても大きいのは富裕層の拡大だろう。高級ワインは贈答品のほか、投機の対象にもなっている。

 その影響をもろに受けているのが、世界的なワイン生産地であるフランスのボルドー。その地の生産者や評論家、高級ワインを買いあさる中国人富裕層などの証言を織り交ぜ、ワインビジネスの裏側を描いたドキュメンタリー映画『世界一美しいボルドーの秘密』が日本公開中だ。自身もオーストラリアでワイナリーを経営するワーウィック・ロス監督に話を聞いた。

──ワインを題材に映画を撮ろうと思ったのは?

シドニーからロンドンに行く飛行機で、アンドリュー・カイヤードと乗り合わせた。彼はオーストラリアのワイン評論家で、「マスター・オブ・ワイン」の資格称号をもつ人物。彼と話をする中で「あなたはワインメーカーであり映画監督であるなら、なぜこれまでワインについての映画を作らなかったのか?」と言われたのがきっかけだ。
 
自分にとっては初のドキュメンタリー映画だったが、とても楽しめた。絶対にまたドキュメンタリーを撮りたい。人々にインタビューして、真実を掘り下げていく作業は素晴らしかった。脚本のない「本当のドラマ」は何て感動的だろうと思ったね。

──中国市場とボルドーワインの話が軸になっているが、撮り進めるうちに構成の予定が変わったりした?

 そうだね、当初の想定とはまったく違った内容になった。もともとは、ワインに対する中国人の関心がボルドーの値段をつり上げているという話になる予定だった。しかし撮影中に、ボルドー史上かつてないほどの価格暴落が起きた。大きな理由は偽造品の横行だ。そこで映画は、暴騰と暴落の物語に変わってしまった。

──あなたはワインには随分詳しいと思うが、それでも新鮮な発見はあっただろうか。

ワイン生産者として技術面で驚かされるようなもの、新たに知りえたものは特になかった。でもボルドーというプリズムを通して、経済力の西洋から東洋への移り変わりを学ぶことができた。今の中国人がどれだけの力を持っているか、つくづく実感した。

面白いのは、撮影しているうちにこれがラブストーリーのように見えてきたこと。伝統があり優雅で洗練されているボルドーと、エキゾチックで気まぐれな中国の恋物語だ。彼らはダンスフロアに現れ、一緒に踊り始める。互いの文化を知らず、相手が話す言葉も分からないが、でもなぜか引かれ合っている――私にはそんな光景が浮かんだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アジア欧州間コンテナ船輸送が最大20%減も、紅海・

ビジネス

米シノプシス、SIG部門を21億ドルで売却 PEグ

ワールド

米CDC、鳥インフル感染阻止で州に要請 

ビジネス

ファーストリテが一時4%超高、好調な4月のユニクロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中