最新記事

映画

ボルドーを翻弄する中国人の赤ワイン愛

2014年10月1日(水)17時02分
大橋 希(本誌記者)

© 2012 Lion Rock Films Pty Limited

© 2012 Lion Rock Films Pty Limited

──ボルドーの生産者にとって中国人は大事な顧客だ。その一方で「成り上がりの中国人」とか「洗練された文化を理解しない人々」というような軽蔑もあるのでは?

 間違いなく、差別的な感情はあると思う。でもそれは、2つの文化が付き合っていこうとするときにはしばしば起こる問題だろう。

 実際、多くの人が「中国人はワインについて無知だ」「何を飲んでいるのかさえ分かっていない」「彼らにはボトルの中身なんてどうでもいいんだ。大事なのはラベルに何て書いてあるかだ」と私に言ってきた。それでも、いま最も大切なお客はアメリカ人でもドイツ人でもイギリス人でもなく、お金のある中国人なんだ。

中国人がワインに関して知識がないのは、たぶん事実だろう。でもそれも劇的に変わりつつある。彼らはすごい勢いで知識を吸収している。ボルドーの人たちはそのことを分かっていないと思う。

──中国のワインは飲んだ?

うーん、飲んだけど、ほとんどはひどい味だった。でも、とてもいいワインをつくる生産者もいくつかある。そのうちの一つが、映画にも登場した「賀蘭晴雪」。国際的なコンペティションの赤ボルドー部門で最高賞を獲得した。目隠しでテイスティングをした審査員たちがフランスのワインでなくこの中国のワインを選んだが、それが分かったときにはみんなショックを受けていた。

一部のフランス人は、「中国産ワインのはずがない。フランスのワインに違いない。彼らはボルドーからワインを持っていって空いたボトルに入れ、中国のラベルを付けてコンペティションに持ってきたんだろう」と言っていた。嫉妬だろうね。

──ボルドーは400年の歴史の中で、最大の岐路に立っているというが。

中国のボルドーワイン市場は右肩上がりに伸びていたが、偽造品の横行で11年には価格の暴落が起きた。映画が完成した後、さらに打撃を与える出来事が起きた。昨年、中国政府のトップが胡錦濤(フー・チンタオ)から習近平(シー・チンピン)に交代したことだ。習政権は腐敗撲滅を掲げ、役人の無駄使いやぜいたくを戒めた。高級品や高級ワインの消費が落ち込み、ボルドーワインも打撃を受けた。今は生産者らも状況を見守っているところだろう。

個人的には、市場はまた盛り返すと思う。今の中国で日常的にワインを飲んでいるのは2000万人。それが2020年には8000万人になると予想されている。6年間で4倍だ。そうなれば状況も再び変わるだろう。

──最後の場面は、あなた自身がワインづくりの中でいつも感じていることだろうか?

 以前も感じていたが、この映画を通してもっと強く感じるようになった。すべては運命だってね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米CIA、中国高官に機密情報の提供呼びかける動画公

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中