最新記事

映画

チベットを裏切るハリウッド

巨大市場に目がくらんでチベット支援は二の次に──
中国当局の「残忍性」に目をつぶる米映画業界の危険な兆候

2013年7月26日(金)16時14分
ベンジャミン・カールソン

熱視線 『カンフー・パンダ』に続きチベットが舞台の作品に挑むカッツェンバーグ(08年10月、四川省) Wang Ruobing-ChinaFotoPress/Getty Images

 ハリウッドと中国の間に残るしこり──それはチベットの問題だ。セレブ活動家たちは長年、チベット独立を支援するコンサートを企画し、授賞式で「チベット解放」を叫び、中国が「ジャッカル」だの「羊の皮をかぶったオオカミ」だのと呼ぶダライ・ラマと親しくして中国政府をいら立たせてきた。

 97年にチベットに関する映画2本(ブラッド・ピット主演の『セブン・イヤーズ・イン・チベット』とマーティン・スコセッシ監督の『クンドゥン』)が公開されると、中国当局は即座に非難。ピットとスコセッシは入国禁止となった。

 そんな中国政府がハリウッドとチベットの映画を共同製作するなんてとんでもない、ばかなことを言うな──と思うだろう。しかしハリウッドが中国依存を強めている今、そのばかなことが現実になっている。4月、ドリームワークス・アニメーション(08年には『カンフー・パンダ』を製作)は、中国最大の映画会社である中国電影集団公司と映画『チベット・コード』を共同製作すると発表した。

 原作は人気冒険小説『蔵地密碼』。9世紀のチベットを舞台に、チベット犬の専門家が仏教の秘宝探しを繰り広げる。ドリームワークス・アニメーションのジェフリー・カッツェンバーグCEOは記者会見で「素晴らしいストーリーであり、政治問題には踏み込まない」と政治的な影響を懸念する声を一蹴。あくまでも「娯楽超大作」で、隠れた思惑などないと強調した。

 一方、この共同プロジェクトに約55%を出資する中国側の言い分は少々違った。中国電影集団公司の韓三平会長は『チベット・コード』は中国の文化や道徳観や価値観を世界に広める一助となるだろうと語った。世界的なイメージアップをもくろむ中国政府の意向に沿った使命だ。

 中国は今やアメリカに次ぐ世界第2位の映画市場。成長する市場に参入しようとハリウッドが躍起になるなか、『チベット・コード』はより危険な領域に一歩踏み込むことになる。

「チベット賛美」の陰で

 中国ではチベットの話題は天安門事件と並んで報道規制が厳しい。100人を超すチベット人の焼身自殺を報道することはできない。中国国内では、漢民族の中国共産党がチベットを残忍で遅れた封建主義から解放したことになっている。

「中国は独自のチベット史をでっち上げている」と香港大学のマイケル・デービス教授(法律学)は言う。「チベットは何百年も前から中国の一部であることに満足しているというのが中国側の言い分だが、外国の研究者のほとんどはそれに異を唱えている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中