最新記事

映画

『ザ・タウン』でアフレックが大復活

最新監督・主演作でおバカセレブから「イーストウッドばり」の映画監督に大変身

2011年2月4日(金)17時02分
キャリン・ジェームズ

絶望の街 銀行強盗団のダグは今の生活から抜け出そうと苦悩するが ©2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES

 ベン・アフレックがお笑いネタにされていた時のことを覚えているだろうか? 歌手のジェニファー・ロペスと婚約した当時は2人合わせて「ベニファー」と呼ばれ、ベタベタする様子がタブロイド誌の格好の材料になった。盟友マット・デイモンとのコンビでは「頭が良くないほう」と言われていた。

 03年には、女優ミンディー・カリングが脚本を書いた『MATT&BENN ―マット&ベン―』というオフオフ・ブロードウェイの爆笑コメディまで上演された。アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』の脚本がアフレックとデイモンの共同執筆ではなく、実は空から降ってきたという話だった。完全にアフレックを馬鹿にしている。

 そのアフレックが監督・主演・共同脚本を務めた『ザ・タウン』で見事な転身を遂げた(日本公開は2月5日)。冗談抜きで、彼は新世代のクリント・イーストウッドと言っていい。『ザ・タウン』は銀行強盗が主人公のスリリングな犯罪映画だが、同時に愛と友情、落ちこぼれた人生から這い出そうとする男の苦悩も描いている。

 これで、アフレックの監督デビュー作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の出来栄えがまぐれでなかったことが証明された。しかも彼がイーストウッドのような名監督の道を歩む期待も抱かせる。娯楽と芸術を融合させ、観客を楽しませつつ大切なメッセージを伝える『許されざる者』のような作品を生み出せる監督だ。

 監督としても実績を残している大物俳優といえばジャック・ニコルソン、デンゼル・ワシントン、ティム・ロビンスなどがいる。しかし若手俳優で、真の映画監督としての力量があるのはアフレックとジョージ・クルーニーだけだ。

 『ザ・タウン』はお気楽な現実逃避の作品に思えるかもしれない。しかしそこには控えめながら深遠なリアリズムが満ちている。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』と同じく舞台は労働者階級が暮らすボストンの片隅。銀行強盗が稼業のように代々受け継がれている街チャールズタウンだ。アフレック本人が育ったのはボストンでも裕福なケンブリッジ地区だが、抑圧された労働者階級の暮らしに共感をみせる彼は葛藤を抱える強盗団のボス、ダグ・マクレイを演じきった。

夜の路面に水をまくような手法は取らない

 映画は迫力の銀行襲撃シーンで幕を開ける。銀行に押し入ったダグたちは逃走の際、支店長のクレア(レベッカ・ホール)を人質として連れ去る。やがてダグはクレアと恋に落ちるが、彼女はダグが強盗団の1人だとは気づいていない。心情を語るような会話はないが、観客にはダグがクレアの純粋さと知性に引かれていることが伝わってくる。

 2人がお互いの気持ちを打ち明けるシーンはとてもさりげなく、イーストウッドっぽい。続いて突入するアクションシーン――銃を撃ち合い、狭い通りでカーチェイスを繰り広げる――の激しさとは対照的だ。『ザ・タウン』は幼い子供が失踪する『ゴーン・ベイビー・ゴーン』のように胸をえぐる物語ではない。しかし、FBI捜査官フローリー(ジョン・ハム)が強盗団を追い詰めていく巧みな展開に思わず引き込まれてしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中