ヒーローたちが泣いている
器用だが想像力が不足
映画会社ワーナー・ブラザースにも責任がある。同社はスナイダーを「明確なビジョンの持ち主」と呼んで前評判をあおりすぎた。
だが43歳のスナイダーはホラー映画『ゾンビ』のリメーク作品『ドーン・オブ・ザ・デッド』とCGの流血シーンばかりの『300』しか撮っていない。経歴から言って「明確なビジョンの持ち主」と呼ぶのは無理がある。実際『ウォッチメン』を見ても、スナイダーの器用さはうかがえるが、想像力はあまり感じられない。
見ごたえがあるのはオープニングクレジット。ボブ・ディランの「時代は変る」にのせて映し出されるのは20世紀の重大事件だ(スーパーヒーローがいる世界の出来事なので、現実とは少し違う)。
「コメディアン」と呼ばれるヒーローがダラスでジョン・F・ケネディを銃で狙う場面もある(ストーリーはコメディアン殺害事件で幕を開ける)。
この鮮やかな導入部はスナイダーの才能を示すもの。皮肉にも、原作から離れて自分で創造しなければならなかった部分だ。
だが本筋に入ると輝きが失われる。スナイダーがプロットのしっかりした正統派の作品を撮ったことがないせいだろう。
俳優陣の演技力もまちまちだ。幸い、アンチヒーローのロールシャッハを演じるジャッキー・アール・ヘイリーの演技は素晴らしい。
演技に定評のあるビリー・クラダップが挑戦したのは、事故によって超人に変身した物理学者の「ドクター・マンハッタン」役。原子を操作したり、火星にテレポートできる超人だ。
スナイダーは登場人物のコスチュームに乳首をつけるというまちがいも犯した。原作のようにスーパーヒーローのパロディー化をねらったとスナイダーは語っているが、その意図は観客には伝わっていない。
全身青ずくめのドクター・マンハッタンが全裸で登場するシーンもある。これも原作に従ったのだろう。原作崇拝者はむき出しの股間を隠したりはしない。
[2009年3月18日号掲載]





