最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

コロナ不況でも続く日本人の「英語は不可欠」という幻想

RETHINKING THE ENGLISH CRAZE

2020年8月28日(金)07時00分
寺沢拓敬(関西学院大学准教授、言語社会学)

XiXinXing-iStock.

<2008年の経済危機後、英語使用は減少したが、「グローバル化が進み、ますます英語を使う機会が増える!」という声一色だった。おそらく今回も「英語熱」の感染拡大は続くが、それでいいのか。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

英語使用・英語教育の観点から、グローバル化の行方を考えたい。英語使用ニーズを研究してきた筆者からすると、コロナ禍は英語関連業界への逆風となるだろう(英語嫌いの人には福音かもしれないが)。ニーズが減るのはほぼ確実だからだ。
20200901issue_cover200.jpg
仕事で英語が必要になるか否かはさまざまな要因に左右される。注目されがちなのは、英語学習に対する各人の意欲や英語力などだろう。一方で社会的条件も重要で、その代表選手が訪日外国人と国際貿易の状況である。外国人を接客する機会や海外顧客との取引が増えるほど、英語でやりとりすることになるからだ。

興味深い例が2008年の経済危機による意外な影響である。世界的不況の結果、日本の貿易額・訪日外国人数が急減し、日本人の英語使用を減少させたのだ。06年と10年の英語使用率の統計を比較すると、10年のほうが有意に低い(拙著『「日本人と英語」の社会学』第9章参照)。

減った記憶などないと言う人もいるだろうが、全体では5%程度の減少だったので、正確にそれを感知できないのは無理もない。当時も今も「グローバル化が進み、ますます英語を使う機会が増える!」という(データの裏付けのない)声一色なので、むしろ年々英語使用が増えていると錯覚しやすいのだ。

現在のコロナ禍には、英語使用を減らす条件にあふれている。まず、周知のとおり、訪日外国人数は、「急減」という表現では足りないくらい大きく減った。貿易額も大きく減少しており、今後、00年代終盤を超える貿易低迷が待っているかもしれない。以上を踏まえると、少なくとも数年間、日本人が英語を使う機会はほぼ確実に減少する。

だが英語を熱心に使ってきた人や英語教育を生業にしている人が過度に悲観する必要はないだろう。海外の取引相手が突然消滅したり、英語学習者が急減したりするわけでもない。たまたま英語を使っていた、いわば「浮動層」の英語使用率が大幅に下がるのであり、「英語コア層」への影響は小さいと考えられる。

コア層にとってもう1つ福音がある。情報技術の進展が海外の人々とのコミュニケーションをいっそう促進する可能性があることである。にわかに脚光を浴びたオンライン会議システムがその代表例である。むしろこれまで接触できなかった海外顧客にもアクセスできるようにさえなるかもしれない。

【関連記事】日本人の英語が上手くならない理由 『日本人の英語』著者が斬る30年間の変遷

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中