最新記事

脳科学

時間を守れないのは性格のせいではなく、脳を仕向ける「技術」を知らないだけ

2020年5月1日(金)11時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

自分が使った言葉は「検索ワード」となり、脳内で過去の動作の記憶を検索する。その記憶をもとに未来の行動を予測して、行動を組み立てていくのである。実際に行動したときは、予測と現実とのギャップを認知し、そのギャップを埋めて行動し、それをまた記憶していくのだ。このプロセスを繰り返すことにより、脳は最適な行動につくり変えていくのである。

しかし、「いつも」という言葉を使うと、これらのプロセスがなかったことになり、時間を守れなかった記憶だけが残ってしまう。それを検索して行動すれば、また遅刻をすることになるのだ。

そこで菅原氏は、「いつも時間が守れない」という言葉を「遅刻したことがあった」と言い換えることを提案している。言い換えることにより、脳は遅刻したときの行動を検索し、同時に遅刻しなかったときの存在も認識する。そこに行動を変えるチャンスが生まれるというわけだ。

脳内時間のゆがみが「スイーツ店の行列に並ぶ」時間の長さを変える

もしあなたが時間を守ることが苦手だと自覚しているなら、出掛け際などに「気がついたら、あっという間に時間が経っていた」と感じた経験があるのではないだろうか。

このように、時間の感じ方には人によって差がある。さらに、同じ人でも時と場合によって、感じる時間に差が生まれる。それは、なぜなのだろうか。

菅原氏は、その理由を脳が行動選択の基準に時間の長さを使い、同時によりよい選択のために時間の長さをゆがめることで起こると説明する。

本書で例として挙げられているのは、お土産のスイーツを買う場面だ。行列ができる評判のスイーツ店か、並ばずに買えるスイーツ店のどちらを選ぶかという選択である。

この行動選択には、スイーツを買うことで得られる報酬に、並ぶ時間や並ぶことをやめて得られた時間などの「時間コスト」が発生する。スイーツ店に並ぶ時間が長くなるほど、スイーツを買うことで得られる報酬が引き算されていくのだ。ここで脳内時間がゆがめられ、人によって待ち時間の感じ方が変わっていく。

報酬の計算は、振り返って比較する過去の時間の長さに影響を受ける。待つ間に思い出す記憶が多いほど、報酬に対して長時間待つ行動を選択するという。報酬を得るまでの時間を長く感じる時間のゆがみが最小限に抑えられ、脳内時間と時計時間を同じように感じるのだ。

逆に振り返る記憶が少ない人は、脳内時間の流れが速くなる。ゆえに30分も待っているような気がするのに、実際は5分しか経っていないということが起こる。

脳が時間をゆがめるのは、自分にとって本当に価値のあるもの(こと)を、正しく判断するための戦略である。脳内時間の調整は無意識に行われるため、望ましい結果になることもあれば、そうでないこともある。そこで菅原氏は、メタ認知により自分の脳に与える情報量を調整することで、脳内時間を操ることを勧めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中