「日本の景気後退回避」「今後は政治巡るリスク」「金利に上昇圧力」...日米15%合意、識者12人の視点
◎15%関税の影響見極めへ、円は方向感模索
<JPモルガン・チェース銀行 為替調査部長 棚瀬順哉氏>
ドル/円はトランプ氏の投稿が伝わった後、条件反射的に円高へ一時振れた。参院選前は結果次第で150円乗せもあり得るとの見方もあっただけに、そうしたリスクシナリオが後退してきたことが、円の買い戻しにつながったのだろう。関税交渉の合意で日銀が利上げに動きやすくなったとの解釈もできる。
当面最大の注目点は、消費税減税の恒久化議論となるが、選挙結果を踏まえると、そのテールリスク発生確率は、さらに低下したと見られる。日本に課せられた関税率15%の影響はEU(欧州連合)など他地域・国との兼ね合いや、パススルー率などに大きく左右されるため、見極めに時間がかかる。
石破首相が辞意表明をするようなことがあれば、ドル/円は多少変動するだろうが、当面は金融政策やマクロ経済の推移を注視しながら、方向感を模索する展開になると想定している。
◎車関税15%は全体でプラス、石破政権続投か
<野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏>
相互関税15%であれば経済のマイナス影響が軽減されることは確か。25%の場合は0.85%GDP(国内総生産)が押し下げられるが、15%だと経済へのマイナス影響は0.66%に軽減される。ただ、自動車関税が15%で、さらに0.1%程度は下がるだろう。日本は自動車関税の撤廃求めていたが譲歩したということ。自動車も下げたということで、トータルで見るとプラスだと思う。
日本がどのような譲歩案を示したのか、従来の姿勢が変わっていないか、コメを含む農産品の大幅な輸入拡大等を約束していないのか、今回相互関税は合意としても、自動車関税の撤廃を引き続き求めていくのであれば、国内での評価は高まり、石破茂政権続投の可能性はかなり高まるだろう。トランプ政権にとって、より大事なことは米国の貿易収支改善なので日本が投資拡大を約束しても評価はされるかもしれないが、満足は得られないだろう。
日本側の譲歩と相互関税以外の自動車、この2点が今後の交渉のポイント。石破政権への国内評価も考えた上での今日の合意だったのだろう。相互関税で二国間合意はしても、今後、医薬品・半導体等で新たな関税をかけてくる可能性はある。農産品もこれまで通りトウモロコシや大豆の輸入拡大であれば国内での反発も出ないと思うが、さらに大幅な輸入関税率の引き下げ、特にコメが絡んでくると、国内で批判が高まり石破政権の求心力が下がってしまう。今回の合意を私は評価している。