最新記事
コメ騒動

備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内屈指の利益団体と農水省のカラクリ

2025年5月23日(金)14時43分
山下 一仁(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)*PRESIDENT Onlineからの転載

JAの「仕入れ値」と「売値」

一つは、消費者に近い卸売業者や大手スーパーではなく、米価を低下させたくないJA農協(全農)に備蓄米を売り渡したことである。その量は、放出された備蓄米の9割を超える。

米価は需要と供給で決まる。備蓄米を放出しても、その分JA農協が卸売業者への販売を減らせば、市場への供給量は増えない。また、JA農協が備蓄米を落札した値段は60キログラム当たり2万1000円である。これより安く売ると損失を被るので、これ以上の価格で卸売業者に販売する。


もう一つは、1年後に買い戻すという前代未聞の条件を設定したたことである。米価の上昇によって、農家は25年産の主食用米の作付けを増加させることが予想される。

しかし、7月まで売り渡す予定の備蓄米61万トンと同量を市場から買い上げ隔離すれば、1年後も米価は下がらない。そもそも、放出して買い戻すのであれば、市場への供給量は増えない。備蓄米の放出には、米価を下げないという農水省の意図が隠されているのだ。

卸売業者がスーパーや小売店に販売するコメは主としてJA農協から仕入れている。その時の価格が「相対価格」と言われるもので、現在60キログラム当たり2万6000円まで高騰している。

農家が「米価が上がった実感がない」と語るワケ

相対価格からJA農協の手数料を引いたものが生産者(農家)価格となる。農家は、まずコメをJA農協に引き渡した時に概算金という仮渡金を受け取り、JA農協から卸売業者への販売が終了した後、実現した米価(相対価格)を踏まえて代金が調整される。

つまり昨年の出来秋時の60キログラム当たり1万6000円程度の概算金から現在の2万6485円(2025年2月)まで上昇した部分は、24年産米の取引終了後に追加払いされることになる。今の時点で、農家が「米価が上がった実感がない」と言うのは当然である。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中