最新記事
飲食業

一期一会を演出する「奇跡」の人気店は数年で潰れる...サイゼ元社長が語る「おいしさ」よりも大切なこと

2024年7月3日(水)17時12分
堀埜 一成(サイゼリヤ元社長)*PRESIDENT Onlineからの転載

「おいしい」人気店が数年後に潰れるのはザラ

多店舗化を視野に入れていないような個人レストランでは、魅力的品質を追求してライバルとの差別化をはかることはよくあります。


しかし、味や盛りつけを洗練させたり、毎回一期一会のサプライズ演出を心がけたりすることは、諸刃の剣になりやすい。「味」を売りにしている店ほど、味が変わったときの評価は厳しくなります。

「昔はおいしかったのに、店主が/シェフが/仕入れが変わって味が落ちた」という評価ほど、恐ろしいものはありません。一時期「おいしい」と評判になり、メディアでも紹介されたような人気店が、数年後には姿を消すということも、実際、珍しくはないのです。

店員が常連のお客さまの名前を呼ぶというサービスも、呼ばれた瞬間はうれしくても、次からは名前を呼ばれないだけで不満に感じてしまう、という落とし穴が待っています。

その店員がずっといてくれればいいですが、残念ながら、人はどんどん入れ替わる。とくに多店舗展開しているチェーン店では、そういう個人の力量に大きく依存したサービスは維持できません。

「特別扱い」よりも「当たり前」を貫く

しかも、そういう「特別扱い」に慣れてしまったお客さまの何割かは、モンスター化してしまいます。

「前はやってくれたのに」「あの店ではやってくれたのに」という不満が爆発して、大声で店員を叱りつけたりする。最初に名前で呼んだ店員は、よかれと思ってしたはずですが、それがかえって潜在的なモンスターを育てていることになりかねない。

だから特別扱いはよくない、「当たり前品質」で統一したほうがブレがなくていいわけです。

では、当たり前品質とは何でしょうか。

アンケート調査をしたことがありますが、たとえば、メニューブックがベタベタしているのが不快だ、という声があります。テーブルがガタつく、ソファに穴が空いているというのもそうです。そうしたことをなくそうと考えました。

店をきれいにリニューアルするにはお金がかかるけど、手を抜かずにメンテナンスすれば、不快だと思われる可能性は少なくなる。そこを大事にするという方針を立てました。

それ以上のことをやろうとしても、国内1000店、従業員数1万人の規模のスタッフを抱えているサイゼリヤでは維持できないからです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中