最新記事
日本経済

実質GDPが3期ぶりマイナス成長 家計の消費支出は7カ月連続減少、けん引役不在の日本経済

2023年11月15日(水)10時46分
ロイター
東京都内のお菓子屋さんの店頭

内閣府が発表した2023年7─9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比0.5%減、年率換算で2.1%減だった。東京都内で3月24日撮影(2023年 ロイター/Androniki Christodoulou)

日本経済を支える内需がさえない。2023年7―9月期実質国内総生産(GDP)は外需の下押し要因も重なり、成長率が3・四半期ぶりのマイナスに転じた。「デフレ完全脱却」を掲げて経済の立て直しを急ぐ岸田政権が、デフレ脱却を宣言できる環境とするには依然として距離がありそうだ。

けん引役不在の日本経済

7―9月期のGDPは物価変動の影響を除く実質で前期比0.5%減、年率換算で2.1%のマイナス成長となった。外需がけん引した4―6月期の高成長から一転して外需がマイナス寄与となり、内需も振るわなかった。

内需はコロナ禍からの回復の足取りが鈍い。内閣府によると、GDP全体では21年10―12月期にコロナ前のピーク(19年10―12月期)を上回ったが、個人消費は14年1―3月期(約310兆円)になお届いていない。

内需を両輪で支える企業の設備投資も、これまで最大だった19年7―9月期(約93兆円)に達しておらず、「景気が緩やかに回復しているという判断そのものに変化はないものの、けん引役不在の状況は否めない」と、政府関係者の1人は語る。

総務省が7日発表した9月の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は前年比2.8%減となり、マイナスが7カ月続いた。家計では物価高の影響から足踏みが目立つ。

不透明感漂う原油動向

先行き10―12月期の実質GDPは「自動車の挽回生産やインバウンド(訪日外国人)需要の回復に支えられ、プラス成長に復帰する」(日本総研の後藤俊平研究員)との見方が多い。

もっとも欧米で金融引き締めの影響が強まれば輸出が伸び悩み、引き続き外需がマイナス寄与となる懸念は拭えない。暗雲漂う中国経済にも期待できず、内需でどこまで支えきれるかが焦点となる。

原油価格の不安定な動きもリスク要因となる。イスラエル・ハマスの衝突で軒並み原油先物価格が急騰したが、足元では一転して安い。オイルマネーの縮減が「アラブの春」と呼ばれる民主化運動に発展した過去もあり、泥沼化すれば、原油価格は再び騰勢を強める展開も予想される。

今のところはプラスを予想しているとはいえ、「原油価格が直近ピーク(1バレル=130ドル)まで上昇した場合、個人消費を年率で0.2%ポイント下押ししかねない」(前出の後藤氏)との懸念が残る。

来年半ば以降の判断か

GDPの公表に先立ち、政府は、所得税減税を含む17兆円台前半の経済対策を打った。経済押し上げ効果を実質GDP換算で19兆円程度と想定し、デフレからの完全脱却をうたう。別の政府関係者は「デフレ脱却の千載一遇のチャンス」と強調し、脱却宣言にこぎ着ければ政治的成果としてレガシーになる、としている。

とはいえ、デフレ脱却の4条件のうち、23年4―6月期に3年9カ月ぶりのプラスに転じたGDPギャップは今回、再びマイナスになることが予想され、先行きもゼロ近傍で推移する見通しだ。デフレに逆戻りする危うい状態からは脱しきれていない。

市場には「実質賃金のマイナスが続く現状では、好循環実現をアピールしにくく、来春のデフレ脱却宣言は難しいと政府が判断する可能性がある」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・主席エコノミスト)との見方がある。

早くても24年6月の所得税減税で可処分所得が引き上げられ、実質賃金のプラスが視野に入る「来年半ば以降の判断となる可能性が相応に高い」と、前出の酒井氏は言う。

(山口貴也、杉山健太郎 編集:橋本浩)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中