最新記事
SDGs

ダイキンに学ぶ、事業成長とSDGs達成の両立──カギは「サブスク」と「スタートアップ」

GROWTH, SDGS, AND SUSTAINABILITY

2023年3月15日(水)14時20分
大橋 希(本誌記者)

230321p18_LED_04.jpg

タンザニアでのエアコン事業はまず5万台設置が目標 COURTESY DAIKIN

ダイキンは12年、地球温暖化係数(*)が従来の3分の1以下の冷媒「R32」を使った家庭用エアコンを世界で初めて発売したが、前年にはその基本的な特許を新興国に、15年には全世界に無償開放。さらに19年には事前の契約なしで特許使用可能とし、世界を驚かせた。「自社の利益だけを考えるのではなく、業界一丸となってより環境にいい製品の普及を進めていきたい」(安部)という考えゆえだ。(*地球温暖化係数=CO2を基準に、他の温室効果ガスの温暖化能力を表した数字)

他社との協力の下、ある実証実験も昨年6月に開始した。日本IBMのブロックチェーン技術を利用し、冷媒の製造・回収・再生(または破壊)の循環サイクルを情報管理するデジタルプラットフォームを構築するもので、北九州市や住友不動産、竹中工務店などが参加。23年をめどに商用化を目指すという。

フロン類が大気中に放出されないよう冷媒の回収・再生率を向上させるには、さまざまな関係組織の保有情報をつないで管理することが重要だ。データの書き換えができず、履歴追跡の可能なブロックチェーンを使えばそれが実現できる。こうした取り組みの意義は大きい。

新技術の採用に積極的なダイキンは、今年1月にも京都大学発スタートアップのAtоmis(アトミス)へ出資。特定の気体分子のみ吸着・分離させられる同社の新素材を冷媒再生に生かしていく。

サブスクで環境負荷低減

230321p18_LED_02.jpg

据え付けを行う人材の育成も COURTESY DAIKIN

国際エネルギー機関(IEA)の推計では、エアコンによる世界の電力需要は50年までに現在の約3倍に増加。途上国を中心にエアコンの需要は間違いなく増え、環境負荷の軽減が重要になっていく。その狙いの下、ダイキンが東京大学発スタートアップのWASSHA(ワッシャ)と共に手がけるのが、アフリカのタンザニアにおけるエアコンのサブスクリプション事業だ。

もともとエアコン普及率の低いタンザニアだが、たとえ設置されていても安価で、省エネ性能の低いものがほとんど。しかも修理のできる技術者が少ないため、故障して放置されているケースが多い。

ダイキンのサブスクでは、利用者は保証料と据え付け工事費を負担するだけ。購入に比べ、初期費用を10分の1程度に抑えられる。さらに省エネのインバーターエアコンを使うので環境負荷も、電気代も減らせる(支払いはWASSHAのモバイルマネー技術を利用)。最終的には商品がダイキンに戻ってくるので、確実に冷媒を回収できる利点もある。数年以内に5万台設置することが目標だ。

工事などを担当する技術者の育成も行うが、これはSDGsの「働きがいも経済成長も」という目標に、エアコンの普及は「全ての人に健康と福祉を」という目標にも関わってくる。

230321p18_LED_03.jpg

ダイキンとWASSHAで設立したBaridi Baridi(バリディバリディ)社のスタッフら。baridiはスワヒリ語で「冷やす」の意味だ COURTESY DAIKIN

こうした「事業の成長とSDGs達成の両立」を目指す姿勢はよりよい未来のために、今後ますます欠かせないものになっていくだろう。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中