最新記事
金融

経営危機のクレディ・スイス「AT1債」無価値の波紋

2023年3月27日(月)11時17分
ロイター
クレディ・スイスとUBSのロゴ

経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスを同業UBSが救済合併するのに当たり、スイス当局がクレディ・スイスが発行した劣後債の一種「AT1債(その他Tier1債)」の価値をゼロにすることを決定すると、市場には戸惑いが広がった。写真はクレディ・スイスとUBSのロゴ。チューリヒで20日撮影(2023年 ロイター/Denis Balibouse)

経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスを同業UBSが救済合併するのに当たり、スイス当局がクレディ・スイスが発行した劣後債の一種「AT1債(その他Tier1債)」の価値をゼロにすることを決定すると、市場には戸惑いが広がった。

クレディ・スイスのAT1債保有者には一切返金されないのに対して、通常なら銀行や企業の危機において弁済順位がより低くなるはずの株主は、総額32億3000万ドル相当のUBS株が割り当てられるからだ。

これによって他の欧州銀行が発行したAT1債が軒並み売りを浴びる事態になった。

AT1債とは

市場規模が2750億ドルに上るAT1債は、「偶発転換社債(CoCo債)」とも呼ばれ、発行した銀行の自己資本比率が一定水準を下回ると、株式に強制的に転換されるか、償却されて価値がなくなる。

これは規制当局が銀行に対して、市場混乱時に備えて確保するよう求めている追加的な資本バッファーの一部だ。

本来債券として最もリスクの高い部類だけに、利回りは高めに設定されている。

AT1債が株式に転換される場合は、当該銀行の財務基盤が強化され存続能力にとってプラスに働く。また銀行は危機時にいわゆる「ベイルイン」として、AT1債の償却を通じて投資家に損失を負担してもらうという方法もある。

クレディ・スイスのAT1債に起きた事態

銀行の資本構造に基づくと、一般的に株式よりAT1債の方が弁済順位は先になる。

ただスイスでは、金融当局は経営再建時におけるAT1債の位置付けに関して、この伝統的な資本構造に従う義務はなく、それがクレディ・スイスのAT1債保有者に今回のような結果をもたらした。

つまり彼らはクレディ・スイス債権者の中で、何も補償が得られない唯一のグループになる。一方、通常なら弁済順位がより後になる株主は、クレディ・スイス1株につき0.76スイスフラン相当のUBS株を受け取れる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相、香港と本土の金融関係強化に期待

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が

ワールド

サムスンSDI、蓄電池供給でテスラと交渉 株価急騰

ビジネス

スタバ、中国事業経営権を地元資本に売却 競争激化で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中