最新記事

日本社会

東京から1時間175平米で26万円でも売れない 大量に放棄された「擁壁のある土地」とは?

2022年12月26日(月)11時50分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載
擁壁上の宅地

現在、175平米26万円で販売されている擁壁上の宅地。東京から高速道路で1時間程度の立地だが、この価格でも買い手を探すのが困難になっている。(千葉県富里市十倉) 筆者撮影


日本の郊外には放棄された分譲地が大量にある。どんな共通点があるのか。「限界分譲地」を取材するブロガーの吉川祐介さんは「千葉県北東部の場合、『擁壁のある土地』が大量に放置されている。販売価格は安いが、実際に家を建てようとすると、整地のために数百万円の出費が必要なので、だれも手を出さない」という――。


日本の郊外で分譲地の価格崩壊が進んでいる

不動産、特に土地の価格は、何よりもまず立地条件や利便性に左右される。そのうえで、広さや地形、接道方向や前面道路の幅員の違いによって価格が決められる。

宅地を例に挙げれば、例えば最寄り駅からの距離がほぼ同じで利便性に差はなくても、土地が北向きで日当たりが悪かったり、前面道路が狭く車両の往来も難しいような場所であれば、周辺の相場価格より安くなるのが通例だ。

それでも、現在の日本で「住宅用地」として一般的に流通する住宅街であれば、多少の条件の悪さは、ただ価格に反映されると言うだけで、それで直ちに流通が止まったり、誰も買い手がつかず放置されるというケースは多くないだろう。

少しでも良い条件の土地を求めるのは皆同じだが、人それぞれ予算も異なれば、住まいに求める条件も違う。日当たりが悪かろうと道が狭かろうと、駅や商業施設に近く、他より安ければ良いと考える人はいるものだ。

しかし、区画の大半が今なお更地のまま残されているような限界ニュータウン・限界分譲地の場合はどうか。限界分譲地の地価の安さは、もちろん立地条件の悪さに起因するものだが、別の遠因として、その分譲地が持つ本来の需要に対し、売地の供給数があまりに多すぎるために価格崩壊を起こしているという事情がある。

タダでも売れず、放棄されていく...

単一の販売業者が販売する現役の分譲地とは異なり、千葉の限界分譲地は、一度は投機目的の取得者の手に渡っているために、現在の所有者は区画ごとに異なる。所有者の大半は現地の土地勘を持たない遠方在住者であり、統一された相場観が形成されることがない。

そこへ、需要をはるかに上回る過剰供給が常態化したらどうなるか。その結末が、現在の土地価格の崩壊である。

南向きの60坪の土地が、北向きの30坪の土地の半額で売られているというような状態も珍しくない。普通の住宅地であれば一番条件が良いはずの区画ですら、底値に近い安値で売られていたりする。

限界分譲地の売地の多くは、所有者の希望価格に沿って広告が出されているものだと思うが、つまるところ、分譲当初の価格と現在の実勢相場があまりに乖離しているために、ほとんどの場合、所有者(売主)がどこまで妥協できるか、その考え方次第で価格が決まる市場であると言っても過言ではないのだ。

ほとんどの所有者は具体的な利活用方法を持ち合わせていないので、相対的に見て好条件の区画であろうと、所有者自身がその土地を捨て値で手放す決断を下せば、それは底値で市場に放出されるのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米

ワールド

トランプ大統領、AI関連規則一本化へ 今週にも大統

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中