社会をよりよく変えるために「権力」を使おう──その前に3つの誤解とは?

POWER, FOR ALL

2022年7月6日(水)12時58分
ジュリー・バッティラーナ(ハーバード大学ビジネススクール教授)、ティチアナ・カシアロ(トロント大学ロットマン経営大学院教授)

「パワーを有している」と思う人を5人挙げるよう学生に指示すると、9割の確率で何らかのヒエラルキーの最上位に位置する人々の名前が挙がる。ところが実際には、多くの企業幹部やCEOが自身の率いる組織内の問題に手を焼き、筆者らの元に相談に訪れる。

最後に3つ目の、そして最も広く信じられているであろう誤解は、「パワーは汚れた存在であり、それを巧みに使いこなすには人を欺き、強権を発動し、冷酷に振る舞わなければならない」というイメージだ。

パワーをめぐる複数の誤解が積み重なると壊滅的な事態に至る。自由で健全な生活を脅かす権力の乱用に気付いて未然に防いだり、食い止めたりするのが難しくなるためだ。その結果、私たちは私利私欲にまみれた一部の人々に全体の運命を決める権限を委ねてしまうというリスクを冒し、しかもその事実に気付いてさえいない。

歴史を振り返れば、庶民の命や自由をないがしろにする暴君の例は枚挙にいとまがないが、独裁体制は今も世界各地で続き、庶民は基本的な人権さえ奪われている。民主主義体制においても、苦労して勝ち取った自由は極めてもろい存在だ。既得権益を必死で守ろうとする一部の特権階級にパワーが集中するリスクが付きまとうためだ。

時代を遡(さかのぼ)ること500年以上、15世紀のイタリアの政治思想家ニッコロ・マキャベリが著した『君主論』は、現在に至るまで多くの権力者やその座を狙う人々に愛読されてきた金字塔的な作品だ。マキャベリは、まさにそうした人々に向けて「君主論」を書いたが、「君主論」と本著の大きな違いもその点にある。

本著はパワーを持つ強者だけに向けた、強者についてのみを論じる本ではなく、全ての人を対象としている──歴史的に、そして今もなおパワーから排除されている集団を含めて。長年パワーと無縁だったからといって、パワーを持てないわけではない。パワーは万人のものなのだ。

パワーを基本要素に分解していくと、たった2つの重要な問いに答えるだけで「誰が、なぜパワーを有しているのか」を分析できることに気付く。「人々は何に価値を見いだすのか」、そして「その価値あるリソース(財産)へのアクセス権を誰がコントロールしているのか」という2つの問いである。

パワーの基本原理

ここではまず、パワーの力学──どんな要素がパワーを構成し、それがどう作用するのか──について見ていこう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米テスラ、19年の死亡事故で和解 運転支援作動中に

ビジネス

午前の日経平均は続伸、朝安後に切り返す 半導体株し

ビジネス

BNPパリバ、業績予想期間を28年に延長 収益回復

ワールド

スペイン政府、今年の経済成長率予測を2.6%から2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中