最新記事

日本経済

物価安定の鍵握る中小企業の賃上げ 格差是正はいばらの道

2022年1月31日(月)16時20分
経団連の十倉雅和会長

今年の春闘では、中小企業の賃上げが例年にも増して注目されている。写真は経団連の十倉雅和会長。都内で2021年5月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

今年の春闘では、中小企業の賃上げが例年にも増して注目されている。岸田文雄政権が掲げる格差是正の象徴となるだけではなく、裾野の広い中小の賃上げが実現すれば、日銀が目指す物価安定にも一歩、近づくからだ。

経団連が取引価格の適正化を表明するなど環境整備も進みつつあるが、直接的な効果は未知数。ここにきての新型コロナウイルス感染再拡大や株価の急落で、経営者がより慎重になる懸念もある。

肌感覚

中小企業白書によると、中小企業数は日本企業の99%を占め、従業員数でも全体の7割に達する、いわば日本経済の主役。ただ、規模が小さく内需に片寄りがちな「街の中小企業」が多い分、海外市場底打ちの恩恵を受けて業績が回復してきた大企業に比べると業績は苦戦が目立ち、企業間の体力や活力の差は依然大きい。

東京の新橋駅近く。日本屈指の飲食店街で、20年超にわたり小さな店を切り盛りしてきたバーの経営者は、日頃からサラリーマンや中小企業の経営者らと接してきた。「従業員との関係が密接な中小企業に、賃上げをしたくない経営者はあまりいない。報いてやりたいができない、という苦悩を抱えている。私もそのひとりだが」と苦笑する。

厚生労働省によると、企業規模別の賃金の格差は依然として大きい。月額賃金をみるると、男性は大企業37万7100円、中企業33万1700円、小企業30万2400円。女性も大企業26万6400円、中企業25万3100円、小企業23万2900円と、ともに規模と賃金が比例する構図が続く。

賃金と密接な関係を持つ資金繰りには、格差拡大の予兆が再び表れている。昨年12月に日銀が公表した短観によると、大企業の資金繰りは回復基調が続く一方、中小企業は再び悪化へ転じた。余力に乏しい企業が多い中小はリーマンショック後、プラス圏へ転じるのに6年近くを要した経緯がある。

交渉過程

春闘の交渉過程では、大企業とは別の事情を抱える。これまで交渉のリード役だった大企業が要求を数値で示さなかったり、一律での要求を取りやめるといった動きが出てきたことで、遅れて本格化する中小企業の労働側が、交渉を勢いよく進めることが難しくなっている。

組合員数の減少もあり、連合はこうした動きに危機感を抱く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、政策決定で政府の金利コスト考慮しない=パウ

ビジネス

メルセデスが米にEV納入一時停止、新モデルを値下げ

ビジネス

英アーム、内製半導体開発へ投資拡大 7─9月利益見

ワールド

銅に8月1日から50%関税、トランプ氏署名 対象限
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中