最新記事

世界経済

コロナ禍のインフレという難題に「政治的な思惑」を持ち込んでいては解決は遠い

THE INFLATION CONUNDRUM

2021年12月2日(木)17時20分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
ブラックフライデー

アメリカではある程度の物価上昇を容認すべき? ALEXI ROSENFELD/GETTY IMAGES

<インフレが現実的な脅威として世界的な注目を集めるが、その先行きについて専門家の見方は分かれている。この難題の解決に必要なものとは>

わずか数カ月前まで、ニュースでインフレが大きな話題になることはほとんどなかった。しかし、ここにきてインフレが世界経済の重要テーマとして急浮上し始めている。アルゼンチン、ブラジル、トルコ、インド、そしてアメリカなど、多くの国で物価の上昇が問題になっているのだ。

最も気掛かりなのは、アメリカの状況だ。10月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比で6.2%。これは過去30年間で最も高い数値だ。世界最大の経済大国でインフレが過熱すれば、世界経済に及ぶ影響は計り知れない。

厄介なのは、アメリカ経済の現状をどう見るべきかについて有力経済学者の見解が一致していないこと。2008年のノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマンの見方によれば、現在のインフレ圧力はサプライチェーンの混乱が原因であり、あくまでも短期的なものだという。

しかし、元IMFチーフエコノミストのオリビエ・ブランシャールは違う見方をしている。目下の物価上昇は、バイデン政権の大型経済対策「米国救済計画」の結果であり、影響は長引く可能性が高いというのだ。

状況は国ごとに大きく異なる

物価上昇の原因は確かに「米国救済計画」にあるが、この政策は誤りではないと、私は考えている。大型経済対策がもたらす恩恵、特に最も弱い立場にある人々を救えることの利点を考えれば、ある程度の物価上昇はやむを得ないと考えるべきだろう。

アメリカの中央銀行であるFRBは、インフレ抑制のために、現在示唆しているよりもかなり大幅な利上げを行う必要が出てくるだろう。それでも、アメリカの政策当局は、目下のインフレを乗り越えるための知恵を持っている。これまでの金融・財政政策もおおむね適切だ。

今回が過去の多くのグローバルなインフレと異なるのは、国ごとの違いが際立っていることだ。新型コロナ危機による景気後退からの急回復が物価上昇の原因である点は世界共通だが、この未曽有の危機への対応が国によって異なったために、経済の状況にも違いが生じている。

とりわけ難しい状況に直面しているのはインドだ。小売物価は上昇しているが、ほかの多くの国ほどではない。10月の小売物価の上昇率は前年同月比で4.5%を記録しているが、上昇ペースはこの数カ月ほとんど変わっていない。それに対し、卸売物価の上昇率は前年同月比で12.5%。9月は10.7%だった。こちらは歯止めが利かなくなりつつあり、1990年代後半以降で最も高い水準に達している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中