最新記事

ビジネス

「それは私の仕事ではありません」 ワークマンはそんなことを言う社員をなぜ大歓迎するのか

2021年1月25日(月)17時40分
岡村 繁雄(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

横浜のJR桜木町駅前の商業施設「コレットマーレ」にオープンした「#ワークマン女子」の店頭(写真提供=ワークマン)


社員のストレスになることはしない、ワークマンらしくないことはしない、価値を生まない無駄なことはしない。徹底した「しない経営」を貫くワークマン。社内行事もなければ、ノルマもなし。女性活躍についても、ユニークな哲学がある。『ワークマン式「しない経営」』を出版したばかりの同社専務、土屋哲雄氏に聞いた――。

#ワークマン女子、オープン前に社内から酷評が殺到

2020年10月、「ワークマン」が運営する「#ワークマン女子」1号店がJR桜木町駅前の商業施設「コレットマーレ」にオープンした。カラフルな店内にはバラをあしらったディスプレーやフォトスポットもあり、同社の象徴ともいうべき作業服は置かれていない。ちなみに店名の頭に"#"をつけたのはSNSとの親和性を意識したからだ。

「開店に向けて、男性社員が責任者となり準備を進めていました。途中で女性の意見も聞こうということで企画畑などの社員に答えてもらったところ、超のつく酷評でした(笑)。例えば、フォトスポットで顔を隠すための熊のぬいぐるみがかわいくないとか、インスタグラムに投稿するには縦の画像が必要なのに横の画像をつくってしまったといった具合。それならいっそ女性に任せてしまおうと。結果的に、それが大成功に結びついています」

こう話すのは、ワークマン専務取締役の土屋哲雄氏。実は彼こそがワークマンの新しい市場を切り拓いてきた立役者と言っていい。三井物産に30年以上勤め、2012年に創業者で叔父でもある土屋嘉雄会長(当時)に乞われて同社の経営に参画した。還暦直前での常務取締役CIO(最高情報責任者)就任である。

入社早々、「何もしなくていい」と言われる

当時、ワークマンは創業してから30年。高品質・低価格をポリシーに順調に業績を伸ばし、作業服の分野ではニッチトップの地位にいた。競合らしい競合もなく、ブルーオーシャン戦略を展開できる優良企業といってよかった。だから、土屋氏は嘉雄会長から「うちはいい会社だから、何もしなくていい」と言われた。

「最近では"働き方改革"が取りざたされていますが、ワークマンはもともと働きやすい会社でした。圧倒的なナンバーワンなので、社員もガツガツしなくてすんだのでしょう。押しつけられた目標もありませんでした。その背景には、数字はストレスになるという考え方があり、あえていえば頑張らない企業文化だったのです。冗談のような話ですが、その頃は在庫データすらありませんでしたから(笑)。そこで私は社員教育に取り掛かろうと考え、とりあえず8月からエクセルを使ったデータ研修をはじめました」

トップダウンの会社だった

入社後4カ月、土屋氏にはワークマンがトップダウンの会社だということが見えはじめていた。と同時に、同社の成長の限界もはっきりと感じられたのである。現状の経営戦略のままだと2025年に1000店舗、売上高1000億円に達し、そこで頭打ちになってしまう。だからこそ、いま手を打たなければジリ貧になってしまう。

土屋氏が採用したのが、全社的「データ経営」と、これまで以上に「しない経営」を推進することだ。前者はデータを活用することで経営陣と社員が平等に議論できるボトムアップの雰囲気づくり。後者は第2のブルーオーシャンを発見し、客層を拡大していくためにワークマンらしさにより一層磨きをかけていくことにほかならない。

「現在はコロナ禍にしても、度重なる自然災害による損失発生にしても、これまでの経験則が役立ちません。AI(人工知能)もある時代に、あえてエクセルにこだわったのは社員一人ひとりにじっくり考えて、結論を出す大切さを知ってほしかったから。研修でデータリテラシーを高め、現場にある情報を正しく分析・判断して上司に伝えてくれということです」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナに兵器供与 50日以内の和平

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中