最新記事

金融

バハマでデジタル通貨「サンドドル」始動 国家による全域導入に世界が注目

2021年1月3日(日)11時30分

カンボジアのような小国も、独自のデジタル通貨プロジェクトを進めている。こうしたデジタル通貨は、特に発展途上国の世界では、銀行へのアクセスを現状阻まれている人々に金融サービスを提供する手段になると期待されている。

バハマの仕組みは、ユーザーへの普及から事業主側の高い決済手数料の回避といった面に至るまで、中銀デジタル通貨がどのように導入され、実際に機能し得るのかの手掛かりを与えてくれる。

ロンドンの中銀シンクタンク、公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)のフィリップ・ミドルトン副会長は「だれもが関心を抱いている。これは第一歩と言って差し支えないと思う」と語る。

「大国の主要中銀が学びを求めるのであれば、(バハマの事例こそ)総合的な教材と言える」

出だしは好調

サンドドルはこの10月に導入され、その後数週間かけて利用者が参加してきた。

約700の島や遠く離れた岩礁から成るバハマは現金の安全な輸送に課題を抱えるため、人々の金融サービスへのアクセス向上がサンドドルの主な目的の一つだ。決済も重要な分野となる。

NRGカフェのサンズさんは、この技術によって零細事業主はクレジットカード会社の手数料を回避できると説明。自身もオムレツやパニーニの商いで4%前後のクレジットカードやデビットカードの手数料を取られており、「零細企業にとって4%は非常に痛い」と話した。

サンドドル導入に際し、まず6つの送金・決済業者が認可を受けた。バハマ中銀はこうした業者のデジタル財布に対してサンドドルを発行する。そうした業者を介し、市民や事業主はアプリ経由でサンドドルにアクセスし、保有し、利用することができる。

中銀によると、商業銀行1行を含む他の3企業も現在、制度参入の審査を受けている。

中銀のデータによると、現在流通しているサンドドルは13万ドル相当で、従来の通貨であるバハマドルの5億0800万ドル相当の規模に比べるとわずかだが、出だしは好調だ。

バハマ中銀、ユーザー、技術を供与している金融機関3社への取材によると、サンドドルは今のところ決済手段として機能しているようだ。

送金業者オムニ・ファイナンシャル・グループのデアドレ・アンドリューズ氏は、商業主は顧客がサンドドルで買い物できるようにしたいと望み、あちこちで制度に参加し始めていると話した。

コロナ時代に安全

バハマの中銀デジタル通貨は、個人が中銀に直接口座を持つのを認めていない。中銀と個人が直接やり取りするようになれば、商業銀行から預金が流出し、そのビジネスモデルが揺るがされかねないからだ。このため、中銀デジタル通貨が伝統的な金融機関に及ぼす影響という点では、バハマの実験は手掛かりにはなりにくい。

バハマ中銀でサンドドル計画を統括するキムウッド・モット氏は、多くの事業主にとっては、コロナ禍中に現金の取り扱いを避けられるのがサンドドルの魅力の1つだと説明。「迅速で滞りもない上に、コロナの時代には安全だ」と語った。

(Tom Wilson記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...



ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン、インドに対する軍事作戦開始と発表

ワールド

アングル:ロス山火事、鎮圧後にくすぶる「鉛汚染」の

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 7
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中