最新記事

自動車

日本電産、日産系の変速機製造ジヤトコに触手 EV化時代にらみ激しい綱引き

2020年10月15日(木)09時50分

2人の話し合いが進む中、日本電産は昨年11月、ジヤトコ買収を日産に打診した。事情を知る複数の関係者によると、日産経営陣はトラクションモーターという主要技術は自社で保有したいと考えており、回答は「ノー」だった。ロイターの問い合わせに対し、日産も日本電産もコメントを控えた。

関氏は年明けまでに日産を退社した。1月13日に新幹線で京都へ向かい、特別顧問として日本電産に入社、4月に社長に就任した。

関氏の最初の仕事の1つは、古巣から優秀な人材をさらに引き入れること、さらにはジヤトコの買収を成功させること。日本電産は2月、再び日産に接触した。

前出の複数の関係者によると、日産の回答はまた「ノー」だった。日産のアシュワニ・グプタCOOは関氏ら日本電産幹部に対し、トラクションモーターの次世代技術開発に向け提携していくことにしか関心がないと非公式に伝えたと、同関係者らは言う。

ジヤトコは「技術的な競争力の厳選の1つ」であり、日本電産に株式の過半数を握らせるつもりはないこと、どうしても現金が必要になればまずは保有するダイムラー株約1.5%を売却すること、競争力あるトラクションモーターを開発する提携以外の協議には応じないこと。グプタ氏はこうした話をしたという。

日本の月刊誌「FACTA」は6月、日産がジヤトコ売却を巡って日本電産と協議を進めていると報じた。日産はこれを否定している。

8月6日、日本電産の幹部2人が横浜市にある日産グローバル本社を訪問するのが目撃された。パワートレインと電気自動車の技術開発を統括する平井俊弘専務執行役員に会うためだ。関係者によると、平井氏はジヤトコを売却するつもりはない、日本電産とはトラクションモーターの提携についてしか話さないと繰り返したという。

日産のグプタCOOは8月19日、静岡県富士市にあるジヤトコ本社へ出向き、社員にメッセージを伝えた。グプタ氏は日本電産の社名は挙げずに、ジヤトコは「日産にとって重要な資産」であり、「パートナー」と考えていると語った。ジヤトコの広報はロイターに対し、グプタ氏の発言の要旨を認めた。

コストを大きく下回る販売価格

永守会長はトラクションモーターの将来性を確信しており、5000億円を投資して中国、メキシコ、ポーランドに工場を建設する考えだ。完成車メーカーへの販売価格はすでに1200─1300ドルまで引き下げている。平均製造コストは1800ドル程度と推定されており、これを大幅に下回ることになる。

トラクションモーターの売り上げは開示していないが、日本電産の発表によると、中国の広汽新能源汽車や広汽豊田汽車、吉利汽車などに供給している。吉利とダイムラーの合弁会社、中国の長城汽車と独BMWの合弁会社にも供給するとの噂があるが、日本電産はコメント控えた。販売価格についてもコメントしなかった。

(白水徳彦 取材協力:山崎牧子 日本語記事作成:久保信博 編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国共産党化する日本政治
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ


ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中