最新記事

日本企業

バフェットが日本商社株取得 インフレとドル安の投資妙味期待か

2020年9月3日(木)12時38分

著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイは30日、日本の5大商社の株式をそれぞれ5%超取得し、持ち分を最大9.9%まで引き上げる可能性があると表明した。写真はバフェット氏。2019年5月、オマハで撮影(2020年 ロイター/Scott Morgan)

著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイは30日、日本の5大商社の株式をそれぞれ5%超取得し、持ち分を最大9.9%まで引き上げる可能性があると表明した。これはバフェット氏が、インフレ進行とドル安に伴う外国株の投資妙味増大を期待している表れかもしれない。

投資対象となったのは伊藤忠商事<8001.T>、丸紅<8002.T>、三菱商事<8058.T>、三井物産<8031.T>、住友商事<8053.T>の各社。いずれもコモディティー探査部門を含め事業は多岐にわたり、バフェット氏が好むバリュー株の典型と言える。

バークシャーが保有するアップルやアマゾンなどの大手IT銘柄主導で、米国株が1990年代終盤のハイテクバブル以来の高値水準に達している今の局面で、バフェット氏がこうした投資に動いたことについて、バークシャーの株主も歓迎する姿勢だ。

資産の3%近くをバークシャーに振り向けているスミード・キャピタル・マネジメントのビル・スミード最高投資責任者は「バフェット氏はインフレで価値が生まれる分野へと投資の軸足を移しつつある」と評価し、出資先の企業は原油などの原材料の価格が跳ね上がれば利益が得られるとの見方を示した。

実際、3月以降は金や物価連動債、一部コモディティーなどの価格が高騰している。主要中央銀行による合計9兆ドルを超える規模の金融緩和が物価を押し上げるのではないかとの懸念が背景にある。さらに米連邦準備理事会(FRB)は先週、物価上昇率が一定期間、目標の2%を上回ることを許容する姿勢を打ち出した。

同時に進んでいるのがドルの下落で、足元では2年ぶりの安値水準で推移。ロイトホルト・グループのチーフ投資ストラテジスト、ジム・ポールセン氏は、米国の投資家にとってドル安は日本やその他の外国株の魅力を高めてくれると説明する。投資先企業の現地通貨建て利益増加が見込まれるからで、外国株投資の環境を一層改善する要素だという。

日本の大手商社株取得は、バフェット氏が長年掲げてきたバリュー株投資の物差しにぴったりとかなっているとの声も根強い。

ラウンティス・アセット・マネジメントのポール・ラウンティス社長は「ウォーレン・バフェット氏は投資の地平線を広げようとしながらも、米国株が非常に割高な時期に、バリュー株投資という根本にこだわっている」と話した。ラウンティスは資産の2割近くをバークシャーに投じている。

ダルトン・インベストメンツの創業者兼アジア・日本担当シニアポートフォリオマネジャー、ジェーミー・ローゼンワルド氏は、とてつもないほど値ごろ感のある日本株市場においても、バフェット氏は笑いが止まらないほど割安な銘柄を手に入れたと指摘した。

バフェット氏は以前から米国外の株式に目を向け、イスラエルのIMCインターナショナル・メタルワーキングやドイツのオートバイアクセサリー小売りのデトレフ・ルイスなどにも投資している。

アクアマリン・キャピタルのポートフォリオマネジャー、ガイ・スピア氏は、日本の商社への出資によってバークシャーは中国市場の足掛かりも強化できるのではないかとみている。同氏は、これらの商社が、台頭する中国でうまく事業を展開する方法の解明に関して、他の多くの企業よりもずっと時間がかけてきた点を重視する。

96歳でバークシャーの副社長を務めるチャーリー・マンガー氏は2月、中国企業の方が米企業よりも強固で急成長していると評していた。バークシャーは中国の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)<1211.HK><002594.SS>に出資している。

今回の日本商社への出資は、バークシャーの1450億ドルに上る手元資金の消化にも貢献する。ダルトンのローゼンワルド氏は、バークシャーにとって多額の現金の有効活用はかなり優先度の高い問題だと述べた。

(David Randall 記者、 Svea Herbst-Bayliss記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・風雲急を告げるポスト安倍レース 後継候補の顔ぶれは?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・「アベノミクスは買い」だったのか その功罪を識者はこうみる
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林官房長官が政策発表、1%程度の実質賃金上昇定着な

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な

ビジネス

野村、年内あと2回の米利下げ予想 FOMC受け10

ビジネス

GLP-1薬で米国の死亡率最大6.4%低下も=スイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中