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新型コロナウイルス感染阻止と経済活動、安倍政権が直面するジレンマ

2020年3月6日(金)12時24分

新型コロナウイルスの感染拡大防止を徹底すれば、経済活動への影響は避けられない。そんなジレンマの中で、政府は10日にも緊急対応策の第2弾を打ち出す。 写真は東京都内の証券会社前。2月28日撮影(2020年 ロイター/Athit Perawongmetha)

新型コロナウイルスの感染拡大防止を徹底すれば、経済活動への影響は避けられない。そんなジレンマの中で、政府は10日にも緊急対応策の第2弾を打ち出す。識者はこの対策について、学校休校やイベント自粛などの感染防止策がもたらす負の影響への止血剤に過ぎないと指摘する。与党からは経済対策として大胆な財政出動を求める声も浮上するが、治療薬やワクチン開発、医療機関支援など根本的な対策を優先すべきとの声もある。

緊急対策に一定の理解、感染阻止がより重要

新型コロナウィルス感染拡大に対する政府の緊急対応策第2弾では、安倍晋三首相が指示した全国一律休校に伴って休業を余儀なくされた事業者や従業員への雇用調整助成金拡充、所得補償、学童保育への支援拡大、中小事業者への新たな金融支援制度、PCR検査への保険適用やマスク増産体制への支援措置などを盛り込む見通しだ。

日本総研理事の山田久氏は「経済活動が大きくスローダウンしても、感染拡大防止を優先することが、中期的な経済にはプラスになる。そのうえで、経済活動自粛による二次災害が起こらないよう、資金繰り対策や雇用調整助成金の活用など、企業への万全な支援策を講じることが重要」と一定の理解を示す。ただし、あくまで緊急対応であり正常化への「出口」として期限を明確することが前提だとしている。

第一生命経済研究所の熊野英生・主席エコノミストも「今回の予備費活用での対策は、いわば止血に過ぎない」と指摘。本来は、国民の不安への対応や、新型コロナ治療薬開発への大胆な支援、PCR検査のボトルネックを解消する策など、医療専門家の知見を活かした感染対策にもっと早く打ち込むべきだったと指摘する。

安倍首相はまた、感染拡大防止のため、外出自粛や興行中止などを要請できるよう、「緊急事態宣言」を可能にする法整備への協力も野党に呼び掛けている。

しかし、政府関係者の一人はこの1─2週間で徹底してやるべきことは検査の拡大による感染者の徹底的洗い出しと隔離だと指摘。それを中途半端にして「やみくもに自粛を呼び掛けて経済を止めると、傷は深くなるだけだ」と懸念を示す。

政府の対応策が逐次投入となっていることについて、政権内からは「新型コロナは影響がどこまで広がるか、どの程度長期化するかわからないので、対策は逐次やるしかない」(閣僚周辺)といった声がある。熊野氏は「経済活動の維持を優先するか、感染阻止を徹底的にやるか、という選択のジレンマがあることを首相もわかっているのだろう」と理解を示す。

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