最新記事

環境問題

アマゾン火災で脚光浴びる森林再生事業 資本利益率では「金のなる木」

2019年9月3日(火)12時45分

資源管理の改善と排出ガスの抑制につながる森林再生は、事業としての投資リターンも良好で、アマゾンの森林火災が広がる中、注目を集めている。写真は火災で燃えたボカ・ド・アクレのジャングル。8月24日、アマゾナス州で撮影(2019年 ロイター/Bruno Kelly)

森林再生は、水や土壌、作物といった資源管理の改善につながる。二酸化炭素が吸収され、そこに蓄えられるようになる。

さらに投資リターンも、エクソンモービルなど温暖化ガス排出量上位100社の大半より優れている。アマゾンで森林火災が広がっているだけに、こうした点は特に注目に値する。

世界資源研究所(WRI)と米国の非営利団体グローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク(GIIN)がそれぞれ行った調査によると、持続可能な森林資本に対するリターンは通常8─18%で、28%に達することもある。持続可能な森林はナッツや果実の収穫、医学研究、ツーリズムなどを通じて利益をもたらす。

リフィニティブの推計では、エクソンモービルの今年の資本利益率(ROC)はそのレンジの下限にとどまる見込み。他の温暖化ガス排出量上位100社のうち、フランスのEDF、ドイツのティッセンクルップ、日産自動車<7201.T>など45社のROCは8%以下。過半数は10%を超えず、15%以下が84社だった。

WRIの推計によると、荒廃した森林などの再生に必要な資金の不足額は年間約3000億ドル。Breakingviewsの試算だと、これは排出量上位100社の年間税引き前利益の合計額の40%程度に相当する。化石燃料などの産業が投資の観点のみでビジネスチャンスをものにしようとし、大気中の二酸化炭素の吸収や洪水・土砂崩れの減少といった森林の効用を顧みないケースがある。

森林に目を向ける企業の1つがロイヤル・ダッチ・シェルだ。同社は今年初めに森林再生などの取り組みに約3億ドルを支出する計画を公表した。これは魔法のような問題解決を狙ったものではない。ベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)が掲げる、温暖化ガス排出量の少ない電力会社への事業転換に向けた計画の一環だ。

森林への投資が温暖化ガス排出量の多い企業に限定される理由はない。ハイネケンで企業の社会的責任(CSR)を担当する幹部は27日、ストックホルムで開催された「世界水週間」で、森林再生は同社が進める水資源管理計画の一部だと述べた。電力や繊維、食品など他の業界が直接恩恵を受けたり、利益を得るかもしれない。

持続可能な森造りは比較的新しいビジネスのため、土壌の水分吸収量が多すぎる樹種を植えるといった失敗が起きるかもしれない。しかし投資と環境の両面でリターンが得られる見通しがあるのだから、環境汚染を引き起こしている企業もまさに「木には金がなるのだ」と理解するようになるに違いない。

Antony Currie

[ニューヨーク ロイター BREAKINGVIEWS]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20190910issue_cover200.jpg
※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。



ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、次期FRB議長人事観

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀「地ならし」で国債市場不安定

ビジネス

再送-〔マクロスコープ〕日銀利上げ判断、高市首相の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中