最新記事

金融

FRB利下げ期待に浮かれる米国株 最高値を更新した市場に潜む「落とし穴」

2019年6月21日(金)17時15分

米国株式市場では、S&P総合500種が終値で最高値を更新した。写真は19日、ニューヨーク証券取引所(2019年 ロイター/Brendan McDermid)

20日の米国株式市場では、S&P総合500種が終値で最高値を更新した。米連邦準備理事会(FRB)の利下げを巡るほとんど有頂天とさえ言えるぐらいの期待感が、買いを促したためだ。

だが株価の変調をもたらしかねない落とし穴は、数多く存在している。

具体的には、1)20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)における米中首脳会談で貿易協議が進展するとの高い期待感、2)高まる地政学的リスク、3)米企業利益の先行き懸念──などだ。さらにストラテジストによると、今の株高は現実ではなく希望的観測に依拠しているという。

ジョーンズ・トレーディングのチーフ市場ストラテジスト、マイケル・オルーク氏は「現在は恐らく、これまでの株式市場を振り返っても最も危険な局面の1つだろう。株価水準はファンダメンタルズに支えられてはいない。支えているのは市場心理や異常な興奮、金融政策に関する非常に大きな希望だ」と指摘した。

実際、FRBが19日までの連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明で、早ければ7月にも利下げする可能性を示唆すると、20日はS&P総合500種が最高値を付けただけでなく、米10年債利回りは2年半余りぶりに節目の2%を下回った。

リスク志向の高まりが市場を動かしている証拠はほかにもある。

投資家の不安心理の尺度となるボラティリティー・インデックス(VIX=恐怖指数)は20日こそやや上がったが、5月初め以降過去最低付近で推移している。アップルは、米中摩擦が激化すれば大きな打撃を受けるとみられているにもかかわらず、20日に株価が一時、5月上旬以来で初めて200ドルを突破した。

ただオルーク氏は、いくつかの材料はもろ刃の剣でプラスとマイナスの両面があると警告する。

例えば市場は利下げの可能性を歓迎しているが、利下げの現実味が増すのは経済状況がさらに悪化した場合であり、それは株価にとってリスクだ。逆に米中貿易協議がまとまれば、FRBが利下げする必要は薄れるかもしれない。

一方、企業利益の見通しが下振れする中で株価が上昇しているため、割高感は強まっている。リフィニティブのIBESデータに基づくと、S&P総合500種企業の予想利益に対する株価収益率(PER)は、FRBの利下げ期待がしっかりと根を下ろす前の今月初め時点で16.3倍だったが、足元では17.1倍に上がった。

ストラテジストは、現在のリスクオン取引は今後数週間で試練にさらされるとみている。

ボストン・パートナーズのグローバル市場調査ディレクター、マイク・ムラニー氏は、G20大阪サミットにおける米中首脳会談で事態進展をうかがわせるどんな小さな手掛かりでも、投資家は好意的に受け止める公算が大きいと予想。しかし会談が決裂すれば、投資家の脳裏には再び貿易戦争の姿がよみがえるので、リスクオフ取引に戻ることになると付け加えた。

株価についての不確実性を助長しているのは、米国とイランの軍事衝突が起きる恐れだ。イランが米軍の無人偵察機を撃墜した20日には、原油価格が5%強も急騰した。

プルデンシャル・ファイナンシャルのチーフ市場ストラテジスト、クインシー・クロスビー氏は、原油高は消費支出を減らすので株価にとってマイナスだと述べた上で、とりわけ景気循環株を買う際には投資家がヘッジを掛けそうな理由の1つになると説明した。

Caroline Valetkevitch

[ニューヨーク 20日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中